カリオカ2宣言
「リオ+20および母なる大地に関する先住民族世界会議」
2012年6月13日―22日
国連持続可能な開発会議リオ+20に参加するため、第1回カリオカ会議が開催されたリオデジャネイロの聖地、カリオカ・プクに結集したわれわれ母なる大地の先住民族は、ブラジルの先住民族に対し、われわれをその領域に迎え入れてくれたことを感謝する。
われわれは、母なる大地、自然、われら先住民族の未来の世代、そして全人類とすべての生命の健全性と安寧を守り、発展させることを訴える責任があることを再認識している。われわれは、世界の先住民族を招集したこの第2回会議の意義を認め、カリオカ宣言と先住民族地球憲章が採択された1992年の歴史的な第1回カリオカ会議の重要性をあらためて確認する。
カリオカ会議および第1回国連地球サミットへの先住民族の参加は、先住民族の権利を求める運動にとって、また環境保全・持続可能な発展において先住民族が果たす重要な役割にとって、前進のための大きな一歩となった。また、リオ+20に合わせた先住民族国際会議としてカリオカ2を招集することを求めたマナウス宣言の意義を、あらためて認識する。
植民地主義の制度化
リオ+20の目標である「グリーン経済」とその前提である、生命を生み出し維持する能力の商品化によってのみ自然を「救う」ことができるという考え方は、先住民族とわれらの母なる大地が520年間直面し抵抗してきた植民地主義の継続である。
「グリーン経済」は貧困を撲滅するとするが、実際は多国籍企業と資本主義を利するだけである。それは化石燃料や、採鉱および石油探査・生産といった採掘産業の行う自然開発による環境破壊、集約的なモノカルチャー農業、その他の資本主義的投資を前提とするグローバル経済の継続である。こうした活動はすべて一握りの者の利益と資本の蓄積のために行われている。
1992年の地球サミット以降、植民地主義は貿易のグローバル化と主流のグローバル資本主義経済の根本原理となった。世界の生態系と生物多様性の搾取と略奪、そしてそれに依存して生きる先住民族の固有の権利の侵害がますます深刻化している。先住民族の自決権、自治権、自決に基づく発展の権利、われわれの固有の土地、領域、資源への権利に対する政府・多国籍企業一体の攻撃が驚くほど増えている。
自分たちの領域を守ろうとする先住民族の活動家や指導者に対する暗殺や投獄、嫌がらせ、「テロリスト」とのレッテル貼りなどの抑圧や軍事化が続いている。先住民族の集団的権利の侵害もまた、罪に問われることがない。強制移住や同化により、われわれの未来の世代、文化、言語、土地に対する精神的あり方や関係が経済的、政治的に脅かされている。
われわれ世界各地の先住民族は、持続不可能な開発や、採鉱、伐採、巨大ダム、石油の探査・採取による自然資源の過剰搾取の侵略から母なる大地を守ってきた。われらの森林は、農作物燃料、バイオマス、プランテーションなど、気候変動と非持続的・破壊的な開発に対する誤った解決策の押し付けに苦しんでいる。
「グリーン経済」は自然の資本主義にほかならない。神聖なるものとすべての生命体および空を民営化し、商品化し、売り払うことで天地創造から利潤を上げようという、企業、採掘産業、政府による倒錯した試みである。そこには、地球上に生きることを可能にし、喜びにしてくれる、われわれが吸う空気、われわれが飲む水、すべての遺伝子、植物、伝統種子、樹木、動物、魚、生物および文化の多様性、生態系、そして伝統的知識が含まれる。
先住民族の食糧主権の権利に対する重大な侵害の継続が、食糧の「不安全」を引き起こしている。われわれの食糧生産量、採集する植物や狩猟する動物、畑や収穫量、飲み水や農業用水、川や小川で捕る魚、これらが急速に減少している。
化学物質を大量に使う大豆の単一栽培プランテーションなどの持続不可能な開発プロジェクト、採鉱などの採掘産業、その他の営利目的の環境破壊的なプロジェクトや投資が、われわれの生物多様性を破壊し、われわれの水、川、小川、大地を汚染し、生命を維持する地球の力を損なっている。生態系全体とそれが生命を育む能力に影響する気候変動および水力発電ダムその他のエネルギー生産が、それをさらに悪化させている。
食糧主権は先住民族の自決と持続可能な発展に対する集団的権利を根本的に表現した権利の一つである。食糧主権と食糧に対する権利は遵守され尊重されなければならない。食糧はわれわれのアイデンティティ、文化と言語、そして先住民族として生き延びていくための力を育むものであり、利潤目的で利用・取引・投機される商品であってはならない。
母なる大地は守られるべき生命の源であり、「自然資本」として搾取され、商品化される資源ではない。天地創造の神聖な秩序の中で、われわれは位置を与えられ、責任をもっている。物事が大地とそれが生み出し支えるすべての生命との調和のうちにあるとき、われわれは持続する喜びを感じる。
天地創造の自然の秩序が壊され、母なる大地とその上に存在するすべての生命の経済的植民地化と劣化が続くのを目にするとき、われわれは調和の乱された大地の痛みを感じる。先住民族の権利が遵守・尊重されない限り、持続可能な発展と貧困撲滅は実現しないであろう。
解決策
先住民族にとって人間と大地の関係は分かちがたいものであり、われわれの未来の世代と人類すべてのために尊敬されなければならないものである。すべての人類に、われわれとともに、先住民族の窮乏化、抑圧、搾取を下支えする社会構造と制度、権力関係の変革にとりくむことを呼びかけたい。
帝国主義的なグローバル化は生命を支えるすべてのものを搾取し、大地を損なう。一握りの人々が際限なく利益を蓄積するような生産と消費のあり方から、人類の必要に根ざした生産と消費に大きく方向転換する必要がある。
社会は、持続的な社会発展の必要を満たすために生産資源を共同でコントロールし、現在の支配的な独占的資本主義制度の下で必ずや生じる過剰生産、過剰消費、そして人間と自然の過剰搾取を防がなければならない。資本主義的発展ではなく、先住民族の智慧に基づいた持続可能な共同体に注目しなければならない。
未来と生命のあり方を脅かす巨大な水力発電ダム、GMO樹木を含む遺伝子組み換え作物、プランテーション、農作物燃料、「クリーンな」石炭、原子力発電、天然ガス、水圧破砕法、ナノテクノロジー、合成生物学、バイオマス、バイオ炭、ジオエンジニアリング(気候工学/地球工学)、排出権市場、クリーン開発メカニズムとREDD+(途上国に対し植林活動などの森林保全に経済的インセンティブを提供すること)[訳注1]など、気候変動に対する誤った解決策を放棄するよう、国連、各国政府、企業に要求する。
地球温暖化の緩和に貢献するどころか、これらの解決策は環境を害し、破壊し、気候変動の危機を急激に悪化させ、地球を居住不可能な場所にしてしまうだろう。地球の均衡を破壊し、季節を消滅させ、すさまじい異常気象を引き起こし、生命を私有化し、そして人類の生存そのものを脅かす誤った解決策を許すわけにはいかない。「グリーン経済」は人道と大地に対する罪である。
持続可能な発展を達成するために、何千年も存在し、植民地主義に直面しても先住民族を支えてきた資源管理に関する伝統的な制度を国家は承認しなければならない。先住民族に影響を及ぼす意思決定プロセスへの先住民族の能動的な参加と、自由で、事前の、十分な情報を得た上での同意[訳注2]に対する権利の保障は必要不可欠である。同様に、国家は、先住民族の持続可能性と自己決定に基づく優先事項に関して、規制や抑制的なガイドラインなしに支援を提供するべきである。
先住民族の若者と女性の活発な参加の重要性を認識すべきである。彼/女らは自然の商品化の負の影響から最も被害を受けている。母なる大地の継承者として、若者は祖先が勇敢に闘って残してきた自然資源を守るために重要な役割を果たしている。資源と文化の商品化のさなかにおいて、若者たちの行動と決定は、その弟、妹たち、さらには次世代の将来を決定する。
われわれは、先住民族の水域、魚、生物多様性と生態系に影響を与える水力発電ダムやその他すべてのエネルギー生産に対する闘争を続ける。単一作物プランテーション、採掘産業とその他の環境破壊的なプロジェクトによる害から先住民族の領域を守るために行動し、また先住民族の文化とアイデンティティを保護しながら、自らの生活様式を守っていくつもりである。
われわれは伝統的な植物と種子を保護するために活動し、またわれわれのニーズと母なる大地のニーズ、そして大地の生命を維持する能力の間のバランスを維持する。先住民族は、これが可能であり、なされなければならないことを世界に示していく。
すべての事柄に関して、われわれは世界各地の先住民族の連帯を結集し組織し、そして善き志を持つ非先住民族とも連帯し、ともに食糧主権と食糧の安全保障のために闘う。われわれは伝統的な種子や食糧などの資源の私有化や企業による支配を拒否する。 最後に、食糧主権を発展させるための適切な技術などの具体的支援の提供を通じて、先住民族の伝統的な管理システムを統御する権利を支持するよう国家に要求する。
われわれは、持続可能な発展と気候変動に対する解決策という嘘の約束を拒否する。それらは支配的な経済秩序を利するだけである。先住民族の生得的な権利である自決権と、土地、領域、水域、自然資源に対する権利、そして大地が生命を創造し維持する権利を侵し続けるような、REDD(途上国における森林の破壊や劣化を回避することで二酸化炭素の排出の削減を図ること)、REDD+、そしてその他の市場ベースの森林重視の解決策を拒否する。
「持続可能な採掘作業」など存在しない。「倫理的な石油」など存在しないのである。
遺伝資源と先住民族の伝統的知識に対する知的所有権の主張をわれわれは拒否する。それは、われわれの生活と文化に必要不可欠な神聖なるものの剥奪と商品化につながるものである。われわれは化学製品や遺伝子操作種子・作物の使用を促進する産業化された食糧生産を拒否する。したがって、われわれは先住民族の種子、医薬的効果のある植物、そして先住民族の土地と領域に根ざし、未来の世代に利益をもたらす伝統的知識を所有し、管理し、保護し、継承する権利を確認する。
われわれが望む未来
これまで持続可能な発展に向けた実効性のある政策は実行されてこなかった。その結果世界は、今や生物多様性の喪失、砂漠化、氷河溶解、食糧・水・エネルギー不足、悪化する一方のグローバル不況、社会不安の深まりと価値観の危機など、環境、経済、気候分野の複合的危機に直面するにいたっている。
この意味において、これらの分野の国際的合意が先住民族の権利とニーズに適切に応えるには、まだ多くの課題が残されている。われわれ先住民族は、われわれの社会の真に持続可能な発展を通じ、「良く生きる」ことができる。先住民族がそのことによって世界に貢献できること、そして先住民族にはそうした潜在的能力が備わっていることが認められるべきである。
われわれは民族(peoples)として、自己決定の権利を改めて主張する。先祖代々継承する土地と領域、水、その他の資源を所有、規制、管理する権利を主張する。大地と領域はわれわれの存在の核となるものである。われわれは大地であり、大地はわれわれである。われわれは大地、領域と特別な精神的・物質的関係を持っている。それらはわれわれの生存、智慧の体系と文化の保存および未来におけるその発展、生物多様性の保全と持続可能な利用、生態系の管理と分かちがたく結びついている。
われわれは、われわれ自身による発展(self-development)、土地・領域その他の資源の利用に向けた優先事項と戦略を決定し、確立する権利を行使するであろう。われわれは自由で、事前の、十分な情報を得た上での同意が、われわれの大地、領域、その他資源に関するあらゆる計画、プロジェクト、活動の承認あるいは拒絶における原則となることを要求する。これらが実行されなければ、植民地主義的モデルに基づく地球とその資源の支配が、処罰されることなく継続するであろう。
われわれは先住民族として団結しながら、われわれ自身と地域コミュニティ、そして真に先住民族のために行動する非先住民族の人々との強い連帯、連携の絆を築きあげる決意である。こうした連帯運動によって、われわれは土地、生命、その他の資源をめぐる先住民族の権利に関するグローバルキャンペーン、自己決定と解放の実現に向けた闘いを前進させるであろう。
自然の支配、終わりなき経済成長、際限なき利潤目当ての資源採掘、持続不能な消費と生産、規制なき商品・金融市場など、植民地主義・資本主義的な開発モデルに対し、われわれは引き続き抵抗し、挑戦するであろう。人類は自然界の有機的一員であり、先住民族の権利を含むすべての人権は開発においても尊重され、遵守されねばならない。
われわれは市民社会に対し、先住民族の権利、世界観を守り、促進し、自然の摂理、先住民族の精神世界と文化、互恵、自然との調和、連帯、集団性を重んじる価値観などに敬意を払うよう求めたい。慈しみ、分かち合うことは、より公正、平等で、持続可能な社会を実現するにあたり、とりわけ必要不可欠な価値観である。この文脈においてわれわれは、文化を持続可能な発展の第四の柱とすることを呼びかけたい。
土地、領域、資源、伝統的知識に関する先住民族の権利の法的認知と保護は、開発や、気候変動への適応やその影響緩和、環境保全(「自然保護区」の創設を含む)、生物多様性の持続可能な利用、砂漠化阻止などをめざすあらゆる計画の前提でなければならない。これらすべてのケースにおいて、先住民族の自由で、事前の、十分な情報を得た上での同意がなければならない。
われわれは、この政治宣言の中に示した地球サミットの公約が果たされるよう引き続き求めていく。われわれは国連に対し、国連先住民族権利宣言とFPIC(自由で、事前の、十分な情報を得た上での同意)の原則に則りながら、これまでの合意の実行を開始すること、そしてリオ+20会議およびそれ以降の全過程と活動における先住民族の十全で、公式の、かつ効力ある参加を保証することを訴える。
われわれは、世界に最後に残された持続可能な生態系と生物多様性のホットスポットに生活しながら、これらを保全する決意である。われわれは持続可能な発展に大きく貢献できるが、そのためには生態系の全体的枠組みが促進されねばならないと考える。すなわち、人権に基づくアプローチ、生態系に基づくアプローチ、文化を重んじ、智慧に基づくアプローチの統合である。
われわれは、先祖が残した足跡を歩む。
2012年6月18日
ブラジル、リオデジャネイロ、聖地カリオカ・プクのカリオカ村にて出席者の拍手で採択
[訳注1]
REDDは森林減少の抑制によって得られる温室効果ガスの排出抑制分を炭素市場で売買することを可能にする。先住民族はこれを市場ベースの解決策であるとして批判している。REDD+も植林活動の資金源に市場メカニズムを導入する方向で議論されている。そうなれば先住民族が住む森林が投機や商業的植林の対象となり、先住民族の慣習的な森林利用や伝統的管理ができなくなるなどの理由から批判し、反対している。
[訳注2]
「自由で、事前の、十分な情報を得た上での同意」の「自由」とは強制や操作のないことであり、「事前」とは事業の認可や企業活動の開始より前でなければならない。
「十分な情報を得た」とは、事業に関する十全かつ法的に正確な情報が、影響を受ける先住民族が理解し利用できる形で開示された上での協議や参加を意味する。「同意」とは事業の事前評価から終了までのすべての段階における協議や意味のある参加が保障された上での同意でなければならない。
翻訳:木村真希子、中野憲志、藤岡美恵子
※ 「カリオカ2宣言」英語版は以下参照。
http://www.indymedia.org.uk/en/2012/06/497262.html
先住民族の10年市民連絡会News 第187号(最新号)より
「リオ+20および母なる大地に関する先住民族世界会議」
2012年6月13日―22日
国連持続可能な開発会議リオ+20に参加するため、第1回カリオカ会議が開催されたリオデジャネイロの聖地、カリオカ・プクに結集したわれわれ母なる大地の先住民族は、ブラジルの先住民族に対し、われわれをその領域に迎え入れてくれたことを感謝する。
われわれは、母なる大地、自然、われら先住民族の未来の世代、そして全人類とすべての生命の健全性と安寧を守り、発展させることを訴える責任があることを再認識している。われわれは、世界の先住民族を招集したこの第2回会議の意義を認め、カリオカ宣言と先住民族地球憲章が採択された1992年の歴史的な第1回カリオカ会議の重要性をあらためて確認する。
カリオカ会議および第1回国連地球サミットへの先住民族の参加は、先住民族の権利を求める運動にとって、また環境保全・持続可能な発展において先住民族が果たす重要な役割にとって、前進のための大きな一歩となった。また、リオ+20に合わせた先住民族国際会議としてカリオカ2を招集することを求めたマナウス宣言の意義を、あらためて認識する。
植民地主義の制度化
リオ+20の目標である「グリーン経済」とその前提である、生命を生み出し維持する能力の商品化によってのみ自然を「救う」ことができるという考え方は、先住民族とわれらの母なる大地が520年間直面し抵抗してきた植民地主義の継続である。
「グリーン経済」は貧困を撲滅するとするが、実際は多国籍企業と資本主義を利するだけである。それは化石燃料や、採鉱および石油探査・生産といった採掘産業の行う自然開発による環境破壊、集約的なモノカルチャー農業、その他の資本主義的投資を前提とするグローバル経済の継続である。こうした活動はすべて一握りの者の利益と資本の蓄積のために行われている。
1992年の地球サミット以降、植民地主義は貿易のグローバル化と主流のグローバル資本主義経済の根本原理となった。世界の生態系と生物多様性の搾取と略奪、そしてそれに依存して生きる先住民族の固有の権利の侵害がますます深刻化している。先住民族の自決権、自治権、自決に基づく発展の権利、われわれの固有の土地、領域、資源への権利に対する政府・多国籍企業一体の攻撃が驚くほど増えている。
自分たちの領域を守ろうとする先住民族の活動家や指導者に対する暗殺や投獄、嫌がらせ、「テロリスト」とのレッテル貼りなどの抑圧や軍事化が続いている。先住民族の集団的権利の侵害もまた、罪に問われることがない。強制移住や同化により、われわれの未来の世代、文化、言語、土地に対する精神的あり方や関係が経済的、政治的に脅かされている。
われわれ世界各地の先住民族は、持続不可能な開発や、採鉱、伐採、巨大ダム、石油の探査・採取による自然資源の過剰搾取の侵略から母なる大地を守ってきた。われらの森林は、農作物燃料、バイオマス、プランテーションなど、気候変動と非持続的・破壊的な開発に対する誤った解決策の押し付けに苦しんでいる。
「グリーン経済」は自然の資本主義にほかならない。神聖なるものとすべての生命体および空を民営化し、商品化し、売り払うことで天地創造から利潤を上げようという、企業、採掘産業、政府による倒錯した試みである。そこには、地球上に生きることを可能にし、喜びにしてくれる、われわれが吸う空気、われわれが飲む水、すべての遺伝子、植物、伝統種子、樹木、動物、魚、生物および文化の多様性、生態系、そして伝統的知識が含まれる。
先住民族の食糧主権の権利に対する重大な侵害の継続が、食糧の「不安全」を引き起こしている。われわれの食糧生産量、採集する植物や狩猟する動物、畑や収穫量、飲み水や農業用水、川や小川で捕る魚、これらが急速に減少している。
化学物質を大量に使う大豆の単一栽培プランテーションなどの持続不可能な開発プロジェクト、採鉱などの採掘産業、その他の営利目的の環境破壊的なプロジェクトや投資が、われわれの生物多様性を破壊し、われわれの水、川、小川、大地を汚染し、生命を維持する地球の力を損なっている。生態系全体とそれが生命を育む能力に影響する気候変動および水力発電ダムその他のエネルギー生産が、それをさらに悪化させている。
食糧主権は先住民族の自決と持続可能な発展に対する集団的権利を根本的に表現した権利の一つである。食糧主権と食糧に対する権利は遵守され尊重されなければならない。食糧はわれわれのアイデンティティ、文化と言語、そして先住民族として生き延びていくための力を育むものであり、利潤目的で利用・取引・投機される商品であってはならない。
母なる大地は守られるべき生命の源であり、「自然資本」として搾取され、商品化される資源ではない。天地創造の神聖な秩序の中で、われわれは位置を与えられ、責任をもっている。物事が大地とそれが生み出し支えるすべての生命との調和のうちにあるとき、われわれは持続する喜びを感じる。
天地創造の自然の秩序が壊され、母なる大地とその上に存在するすべての生命の経済的植民地化と劣化が続くのを目にするとき、われわれは調和の乱された大地の痛みを感じる。先住民族の権利が遵守・尊重されない限り、持続可能な発展と貧困撲滅は実現しないであろう。
解決策
先住民族にとって人間と大地の関係は分かちがたいものであり、われわれの未来の世代と人類すべてのために尊敬されなければならないものである。すべての人類に、われわれとともに、先住民族の窮乏化、抑圧、搾取を下支えする社会構造と制度、権力関係の変革にとりくむことを呼びかけたい。
帝国主義的なグローバル化は生命を支えるすべてのものを搾取し、大地を損なう。一握りの人々が際限なく利益を蓄積するような生産と消費のあり方から、人類の必要に根ざした生産と消費に大きく方向転換する必要がある。
社会は、持続的な社会発展の必要を満たすために生産資源を共同でコントロールし、現在の支配的な独占的資本主義制度の下で必ずや生じる過剰生産、過剰消費、そして人間と自然の過剰搾取を防がなければならない。資本主義的発展ではなく、先住民族の智慧に基づいた持続可能な共同体に注目しなければならない。
未来と生命のあり方を脅かす巨大な水力発電ダム、GMO樹木を含む遺伝子組み換え作物、プランテーション、農作物燃料、「クリーンな」石炭、原子力発電、天然ガス、水圧破砕法、ナノテクノロジー、合成生物学、バイオマス、バイオ炭、ジオエンジニアリング(気候工学/地球工学)、排出権市場、クリーン開発メカニズムとREDD+(途上国に対し植林活動などの森林保全に経済的インセンティブを提供すること)[訳注1]など、気候変動に対する誤った解決策を放棄するよう、国連、各国政府、企業に要求する。
地球温暖化の緩和に貢献するどころか、これらの解決策は環境を害し、破壊し、気候変動の危機を急激に悪化させ、地球を居住不可能な場所にしてしまうだろう。地球の均衡を破壊し、季節を消滅させ、すさまじい異常気象を引き起こし、生命を私有化し、そして人類の生存そのものを脅かす誤った解決策を許すわけにはいかない。「グリーン経済」は人道と大地に対する罪である。
持続可能な発展を達成するために、何千年も存在し、植民地主義に直面しても先住民族を支えてきた資源管理に関する伝統的な制度を国家は承認しなければならない。先住民族に影響を及ぼす意思決定プロセスへの先住民族の能動的な参加と、自由で、事前の、十分な情報を得た上での同意[訳注2]に対する権利の保障は必要不可欠である。同様に、国家は、先住民族の持続可能性と自己決定に基づく優先事項に関して、規制や抑制的なガイドラインなしに支援を提供するべきである。
先住民族の若者と女性の活発な参加の重要性を認識すべきである。彼/女らは自然の商品化の負の影響から最も被害を受けている。母なる大地の継承者として、若者は祖先が勇敢に闘って残してきた自然資源を守るために重要な役割を果たしている。資源と文化の商品化のさなかにおいて、若者たちの行動と決定は、その弟、妹たち、さらには次世代の将来を決定する。
われわれは、先住民族の水域、魚、生物多様性と生態系に影響を与える水力発電ダムやその他すべてのエネルギー生産に対する闘争を続ける。単一作物プランテーション、採掘産業とその他の環境破壊的なプロジェクトによる害から先住民族の領域を守るために行動し、また先住民族の文化とアイデンティティを保護しながら、自らの生活様式を守っていくつもりである。
われわれは伝統的な植物と種子を保護するために活動し、またわれわれのニーズと母なる大地のニーズ、そして大地の生命を維持する能力の間のバランスを維持する。先住民族は、これが可能であり、なされなければならないことを世界に示していく。
すべての事柄に関して、われわれは世界各地の先住民族の連帯を結集し組織し、そして善き志を持つ非先住民族とも連帯し、ともに食糧主権と食糧の安全保障のために闘う。われわれは伝統的な種子や食糧などの資源の私有化や企業による支配を拒否する。 最後に、食糧主権を発展させるための適切な技術などの具体的支援の提供を通じて、先住民族の伝統的な管理システムを統御する権利を支持するよう国家に要求する。
われわれは、持続可能な発展と気候変動に対する解決策という嘘の約束を拒否する。それらは支配的な経済秩序を利するだけである。先住民族の生得的な権利である自決権と、土地、領域、水域、自然資源に対する権利、そして大地が生命を創造し維持する権利を侵し続けるような、REDD(途上国における森林の破壊や劣化を回避することで二酸化炭素の排出の削減を図ること)、REDD+、そしてその他の市場ベースの森林重視の解決策を拒否する。
「持続可能な採掘作業」など存在しない。「倫理的な石油」など存在しないのである。
遺伝資源と先住民族の伝統的知識に対する知的所有権の主張をわれわれは拒否する。それは、われわれの生活と文化に必要不可欠な神聖なるものの剥奪と商品化につながるものである。われわれは化学製品や遺伝子操作種子・作物の使用を促進する産業化された食糧生産を拒否する。したがって、われわれは先住民族の種子、医薬的効果のある植物、そして先住民族の土地と領域に根ざし、未来の世代に利益をもたらす伝統的知識を所有し、管理し、保護し、継承する権利を確認する。
われわれが望む未来
これまで持続可能な発展に向けた実効性のある政策は実行されてこなかった。その結果世界は、今や生物多様性の喪失、砂漠化、氷河溶解、食糧・水・エネルギー不足、悪化する一方のグローバル不況、社会不安の深まりと価値観の危機など、環境、経済、気候分野の複合的危機に直面するにいたっている。
この意味において、これらの分野の国際的合意が先住民族の権利とニーズに適切に応えるには、まだ多くの課題が残されている。われわれ先住民族は、われわれの社会の真に持続可能な発展を通じ、「良く生きる」ことができる。先住民族がそのことによって世界に貢献できること、そして先住民族にはそうした潜在的能力が備わっていることが認められるべきである。
われわれは民族(peoples)として、自己決定の権利を改めて主張する。先祖代々継承する土地と領域、水、その他の資源を所有、規制、管理する権利を主張する。大地と領域はわれわれの存在の核となるものである。われわれは大地であり、大地はわれわれである。われわれは大地、領域と特別な精神的・物質的関係を持っている。それらはわれわれの生存、智慧の体系と文化の保存および未来におけるその発展、生物多様性の保全と持続可能な利用、生態系の管理と分かちがたく結びついている。
われわれは、われわれ自身による発展(self-development)、土地・領域その他の資源の利用に向けた優先事項と戦略を決定し、確立する権利を行使するであろう。われわれは自由で、事前の、十分な情報を得た上での同意が、われわれの大地、領域、その他資源に関するあらゆる計画、プロジェクト、活動の承認あるいは拒絶における原則となることを要求する。これらが実行されなければ、植民地主義的モデルに基づく地球とその資源の支配が、処罰されることなく継続するであろう。
われわれは先住民族として団結しながら、われわれ自身と地域コミュニティ、そして真に先住民族のために行動する非先住民族の人々との強い連帯、連携の絆を築きあげる決意である。こうした連帯運動によって、われわれは土地、生命、その他の資源をめぐる先住民族の権利に関するグローバルキャンペーン、自己決定と解放の実現に向けた闘いを前進させるであろう。
自然の支配、終わりなき経済成長、際限なき利潤目当ての資源採掘、持続不能な消費と生産、規制なき商品・金融市場など、植民地主義・資本主義的な開発モデルに対し、われわれは引き続き抵抗し、挑戦するであろう。人類は自然界の有機的一員であり、先住民族の権利を含むすべての人権は開発においても尊重され、遵守されねばならない。
われわれは市民社会に対し、先住民族の権利、世界観を守り、促進し、自然の摂理、先住民族の精神世界と文化、互恵、自然との調和、連帯、集団性を重んじる価値観などに敬意を払うよう求めたい。慈しみ、分かち合うことは、より公正、平等で、持続可能な社会を実現するにあたり、とりわけ必要不可欠な価値観である。この文脈においてわれわれは、文化を持続可能な発展の第四の柱とすることを呼びかけたい。
土地、領域、資源、伝統的知識に関する先住民族の権利の法的認知と保護は、開発や、気候変動への適応やその影響緩和、環境保全(「自然保護区」の創設を含む)、生物多様性の持続可能な利用、砂漠化阻止などをめざすあらゆる計画の前提でなければならない。これらすべてのケースにおいて、先住民族の自由で、事前の、十分な情報を得た上での同意がなければならない。
われわれは、この政治宣言の中に示した地球サミットの公約が果たされるよう引き続き求めていく。われわれは国連に対し、国連先住民族権利宣言とFPIC(自由で、事前の、十分な情報を得た上での同意)の原則に則りながら、これまでの合意の実行を開始すること、そしてリオ+20会議およびそれ以降の全過程と活動における先住民族の十全で、公式の、かつ効力ある参加を保証することを訴える。
われわれは、世界に最後に残された持続可能な生態系と生物多様性のホットスポットに生活しながら、これらを保全する決意である。われわれは持続可能な発展に大きく貢献できるが、そのためには生態系の全体的枠組みが促進されねばならないと考える。すなわち、人権に基づくアプローチ、生態系に基づくアプローチ、文化を重んじ、智慧に基づくアプローチの統合である。
われわれは、先祖が残した足跡を歩む。
2012年6月18日
ブラジル、リオデジャネイロ、聖地カリオカ・プクのカリオカ村にて出席者の拍手で採択
[訳注1]
REDDは森林減少の抑制によって得られる温室効果ガスの排出抑制分を炭素市場で売買することを可能にする。先住民族はこれを市場ベースの解決策であるとして批判している。REDD+も植林活動の資金源に市場メカニズムを導入する方向で議論されている。そうなれば先住民族が住む森林が投機や商業的植林の対象となり、先住民族の慣習的な森林利用や伝統的管理ができなくなるなどの理由から批判し、反対している。
[訳注2]
「自由で、事前の、十分な情報を得た上での同意」の「自由」とは強制や操作のないことであり、「事前」とは事業の認可や企業活動の開始より前でなければならない。
「十分な情報を得た」とは、事業に関する十全かつ法的に正確な情報が、影響を受ける先住民族が理解し利用できる形で開示された上での協議や参加を意味する。「同意」とは事業の事前評価から終了までのすべての段階における協議や意味のある参加が保障された上での同意でなければならない。
翻訳:木村真希子、中野憲志、藤岡美恵子
※ 「カリオカ2宣言」英語版は以下参照。
http://www.indymedia.org.uk/en/2012/06/497262.html
先住民族の10年市民連絡会News 第187号(最新号)より