2013年1月7日月曜日

「脱原発の呪縛」と「原発の呪縛」論の錯誤(1) ~再び、原発政策において自民党と民主党に違いはあるか?

「脱原発の呪縛」と「原発の呪縛」論の錯誤(1) ~再び、原発政策において自民党と民主党に違いはあるか?

 京都大学・原子炉実験所の山名元教授が、「年頭にあたり 原発政策を現実に引き戻す時だ」という文章を書いている(産経新聞「正論」 1月4日)。そして教授のこの一文を「理論的支柱」にでもするかのように、産経新聞は今日(7日)、「日本のエネルギー 「ゼロの呪縛」を解こう 原子力を基軸に再構築せよ」なる「主張」を公開した。

 産経新聞の「脱原発の呪縛」論は、毎日新聞が先月特集した「原発の呪縛」シリーズへの対抗言説としてあり、山名氏の一文は、毎日新聞による吉岡斉氏へのインタビュー、「特集ワイド:原発の呪縛・日本よ! 科学史家・吉岡斉さん」を意識したものになっているように読める。

 しかし、それぞれの文章を読み進めるにつれ、「脱原発の呪縛」論と「原発の呪縛」論のいずれに対しても、1)、前野田政権の原発政策の分析と、自民党の政権公約に記されている原発・エネルギー政策の分析、2)、先の選挙結果に関する分析に誤解や誤りがあるのではないか、という思いを強くした。
 1)に関する私の論点は、
①党として打ち出されている自民党の原発・エネルギー政策なるものと、前野田政権のそれは、レトリック上の違いを除くなら、いずれもその基本にあるのは原発推進論であって、両者にさしたる違いはないこと、また、
②選挙後の安倍首相を筆頭とする一部閣僚による原発の新規建設や再稼動を推進する発言は、自民党の公約からの逸脱だという点にある。そして、
③この安倍政権の先走った政治的暴走にもまた、先の選挙結果に対する安倍首相本人の根本的な「勘違い」が読み取れるのではないか、という点である。
 最初に、自壊した民主党野田政権が「原発ゼロ」政権であったかのような広く流布している固定観念とその論調についてみていこう。

1、民主党野田政権=「原発ゼロ」論の錯誤

 山名教授は言う
・・
 新政権がまず行うべきは、前政権の「革新的エネルギー・環境戦略」を、いったん白紙に戻すことである。現実的な具体策や論理性を欠きながらも、「2030年代の原発ゼロ」を至上命令としたこの文書の、基本政策としての妥当性を問う声は多いうえ、この「原発ゼロ目標」をそのまま政権公約とした民主党が総選挙で敗北した事実は重い。
・・

 野田政権は、いつ「「2030年代の原発ゼロ」を至上命令」としたのか? 
 民主党は、いつ「原発ゼロ目標」をそのまま政権公約とした」のか?
 これらの事実に基かない、意図的な誇大表現と事実誤認、それらに隠れた政治的意図を見破るためには、野田政権の「革新的エネルギー・環境戦略」(2011年9月14日)と、これに基く閣議決定(同、9月19日)をセットで、これらの一字一句に目を通すだけで十分である。

 「革新的エネルギー・環境戦略」は次のように述べている。
・・
 「革新的エネルギー・環境戦略」は、省エネルギー・再生可能エネルギーといったグリーンエネルギーを最大限に引き上げることを通じて、原発依存度を減らし、化石燃料依存度を抑制することを基本方針とし、これまでの広く多様な国民的議論を踏まえ、次の三本柱を掲げる。
  
 第一の柱は、「原発に依存しない社会の一日も早い実現」。
 これを確実に達成するために、3つの原則を定める。これにより、第二の柱「グリーンエネルギ
ー革命の実現」を中心に、2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する。その過程において安全性が確認された原発は、これを重要電源として活用する
・・

 また、この「戦略」の5日後になされた閣議決定の内容はこのようになっている。
・・
 
 今後のエネルギー・環境政策については、「革新的エネルギー・環境戦略」(平成24年9月14日エネルギー・環境会議決定)を踏まえて、関係自治体や国際社会等責任ある議論を行い、国民の理解を得つつ、柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら遂行する。
・・
  いったい、この「例によって例の如し」としか言いようのない「霞が関文学」から、何か日本政府あるいは与党民主党の〈政策〉として「確たる方針」と言いうるような、何がしかのものを読み取ることができるだろうか?
 「原発稼動ゼロ」と「原発ゼロ」が、まったく違うものであることは誰にだって理解できるだろう。
 「稼動ゼロ」とは、各原子炉の「冷温停止」状態を維持し続ける⇒発電を停止し続けることであって、原発事業所の廃止はおろか原子炉の廃炉さえ意味しない。

 要するに、民主党=「原発ゼロ」=「非現実的」=「理想主義」なる表現は、民主党叩き・潰しのために原発推進・再稼動容認派によって意図的に使われてきた、いわば「政治用語」なのである。その背後に隠れているのは、民主党を叩き、潰すことによって、歴代自民党政権による原発推進・エネルギー政策の抜本的見直しを訴えてきた脱原発運動を叩き、潰すという原発推進・再稼動容認派の政治戦略である。

 「革新的エネルギー・環境戦略」は、「稼動ゼロ」をめざすとしながらその一方で、「安全性が確認された原発」を「重要電源として活用」するという矛盾した表現に明らかなように、「ベスト・ミックス」論に余地を残しているいう点において、「稼動ゼロ」さえ本気で追求しているとはいえない。
(逆説的な言い方になるが、誰がどのように原発の「安全性」を「確認」するのかについては置くとしても、「安全性」が「確認」された原発をなぜ稼動停止にする必要があるのか? まったく意味不明、支離滅裂だとしか言いようがない。因みに、脱原発の基本的論理は、原発の「安全性」なるものは「確認」できない、というところにある。) 

 しかし、ここで「戦略」の矛盾を問題にしても、それこそ意味がない。なぜなら、「戦略」=野田政権の原発政策の根幹にあるのは「推進」の二文字だったからである。推進派であるにもかかわらず、脱原発の世論に流され「稼動ゼロ」を語ろうとするから、主張は論理的一貫性を欠き、意味不明で支離滅裂となる。

 「閣議決定」の文言にある「国際社会等と責任ある議論を行い」、「柔軟性をもって・・・」「遂行する」という有権者を欺く官僚言葉に注目してほしい。これらの表現のいったいどこに、民主党=野田政権の「稼動ゼロ」「原発ゼロ」?に向けた意思と決意を読み取ることができるだろう?

2、自民党の政権公約から離れ、勘違いしながら暴走した安倍首相

 一方、安倍政権はどうか。
 自民党の公約、「現在及び後世の国民生活に責任の持てるエネルギー戦略の確立」を参照しながら、まずこの間の安倍首相を始めとした一部閣僚の暴走、つまりは彼らの発言(妄言?)と党の公約とが乖離したものであったことを確認しておこう。

 「戦略の確立」は、次のようになっている。
・・
・いかなる事態・状況においても社会・経済活動に支障がないよう、エネルギー需給の安定に万全を期します。

全てのエネルギーの可能性を徹底的に掘り起こし、社会・経済活動を維持するための電力を確実に確保するとともに、原子力に依存しなくてもよい経済・社会構造の確立を目指します

当面の最優先課題として、3年間、再生可能エネルギーの最大限の導入、省エネの最大限の推進を図ります。

・原子力の安全性に関しては、「安全第一」の原則のもと、独立した規制委員会による専門的判断をいかなる事情よりも優先します。原発の再稼働の可否については、順次判断し、全ての原発について3年以内の結論を目指します。安全性については、原子力規制委員会の専門的判断に委ねます。

・中長期的エネルギー政策として、将来の国民生活に責任の持てるエネルギー戦略の確立に向け、判断の先送りは避けつつ、遅くとも10年以内には将来にわたって持続可能な「電源構成のベストミックス」を確立します。その判断に当たっては、原子力規制委員会が安全だと判断する新たな技術的対応が可能か否かを見極めることを基本にします。
・・

 果たして、自民党の公約内容に民主党野田政権の「戦略」との根本的な差異を確認することができるだろうか? できない、と私には思えるが読者はどうだろう。 たとえば、12月28日付けの日経新聞の記事がある。その中では、安倍首相が全閣僚に指示した内容が明らかにされている。
 記事によると原発の再稼働について、首相は「安全性が確認された原子力発電所は順次再稼働し、重要電源として活用することで電力の需給に万全を期す」と言明したとされている。安倍首相は「中長期的に原発依存度を下げることを目指しつつ、足元のエネルギー需給に配慮して再稼働を進めていく立場を示した」のである。

 原発推進・新規建設を進めながらも、「中長期的に原発依存度を下げることを目指しつつ」、「再稼働を進めていく」ことは、少なくとも論理上は矛盾しない。これがいわゆる「ベスト・ミックス」論なるものの基本理念である。
 民主党の「戦略」にある、「2030年代に原発稼働ゼロを可能とするよう」という経産省・財界の再稼動戦略と矛盾した、つまりは「安全性が確認」された原発の順次再稼動を前提にすれば実現不能になる「稼動ゼロ」論を除外すれば、自民党の原発政策はその実質において民主党の「戦略」とさして変わり映えのしない代物だということが理解できるのではないだろうか。
 

3、安倍首相の軌道修正?

 年が明け、原発政策をめぐる安倍首相の発言は、連続的再稼動と新規建設、福島第二の存続までをも示唆していた年末までの威勢のよかった発言からトーンダウンし、軌道修正したかのようにも聞こえなくもない。 1月4日の記者会見
・・
 「低廉かつ安定的な電力供給は可能か否か、世界の化石燃料の供給リスクについての情勢判断、(福島第一)原発事故の検証と安全技術の進歩の動向をじっくりと見据えながら、ある程度の時間をかけて腰を据えて検討していきたいと思います」
 安倍首相は、「できる限り原発依存度を低減させていくという方向、方針に沿って判断をすべきだというのは当然のことだ」とした上で、原発の新規増設・再稼働の判断を急がない考えを示した・・・」(日テレニュース)
・・

 「原発の新規増設・再稼働の判断を急がない考え」もクソもない。そもそも「原発の新規増設」など、自民党の政権公約には一言も出てこない。
 また、公約に従うなら、首相や内閣が再稼動の判断を急ごうにも、急ぎようがない。すべては規制委の判断待ちだと公約で公約しているのだから。
 要するに、昨年暮れの一連の安倍首相による新規増設・連続的再稼動発言は、政権公約とかけ離れ、党の方針にも反した圧勝に浮き足立った安倍首相の一人芝居、あまりに先走った暴走だったと解釈したほうが実態に近そうである。

 自民党の政権公約と、原発の連続的再稼動と新規増設を主張する安倍首相や一部閣僚の政治主張との間には、明らかに乖離がある。それだけ「3・11」がもたらした現実は甚大だったということだろう。
 現に存在する乖離が、まるで存在しないかのように振舞いながら、今夏にも規制委が策定する予定の「新安全基準」を待って、秋以降の再稼動の地ならしをすること。そのために徹底した「脱原発の呪縛」論をキャンペーンすること。原子力ムラの利害と戦略を一身に背負った安倍首相と安倍内閣にとっての焦点は、すでにそこに移っている。

 原発推進・連続的再稼動容認派の先走った発言や暴走に惑わされないようにしたいものである。

(つづく)

「批評する工房のパレット」内の関連ページ
⇒「「議論が深まらない社会」(1)--「脱原発依存社会」をめぐって」(2012, 8/1)
⇒「「脱原発依存社会」宣言をどう評価するか?」(2011, 7/14)

・・・
「福島の原発全廃」75% 福島民報調査 県民に強い拒否感 (東京新聞 1/7)
「・・・福島県民を対象とした意識調査で、冷温停止中の東京電力福島第一原発5、6号機、第二原発1~4号機の再稼働について、「全て廃炉にすべき」との回答が75・4%を占め、脱原発を強く望む意識が浮かび上がった。福島民報社が調べた・・・」 

「原発再稼働」「需要拡大」=諮問会議で重視-民間議員2氏 (時事)
「・・・政府が再開する経済財政諮問会議の民間議員に内定した三菱ケミカルホールディングスの小林喜光社長は7日、都内で記者団に対し「成長戦略とエネルギー政策を諮問会議のテーマとしたい」と語った。特にエネルギー政策に関して「いかに原発を再稼働するかだ」として、再稼働が必要との立場を論議で強調する考えを示した・・・」

「先行除染も手抜き」 福島第一原発周辺の作業員証言 (朝日新聞 1/6)
「・・・建物や道路から20メートル内の本格除染に先駆けて作業拠点となる役場などで実施した先行除染でも、回収しなければならない枝葉や水を捨てる「手抜き除染」をしていたと証言した・・・」 http://news24.jp/articles/2013/01/04/04220696.html