アルジェリア人質事件の顛末について
1
アルジェリアの人質事件が最悪の事態となり、フランスのマリ軍事介入も人質事件同様、最悪の事態になろうとしている。このままゆけば、マリは間違いなく第二のアフガニスタン、イラク、そしてソマリアになってしまうだろう。
今回のマリ軍事介入の目的が「国土統一」にあり、イスラーム武装勢力の「完全掃討」にあるとフランス国防相が宣言してから4日が経とうとしている。しかし、すでに述べたようにマリ北部の独立あるいは連邦制的自治とトゥアレグを中心とする諸民族の集団的権利の承認なくして、マリ内戦が終息することはありえない。
また、アルカイダ「系」武装勢力とトゥアレグの武装勢力を同一視し、そのすべてを軍事的に解体することも不可能である。戦局的にフランス軍と政府軍が優勢であるかのような情報が流布されているが、それは武装勢力側が戦略的に後退し、部隊の損傷を受ける前に占領した一部南部や中部地域から撤退したため、と見るべきだろう。かれらは明らかに「地の利」を生かした持久戦に持ち込もうとしているのである。
武装勢力を含めたトゥアレグの政治勢力との和平交渉を拒否し、さらにトゥアレグの自治(autonomy)と集団的権利を全否定することは、トゥアレグの武装勢力をアルカイダ「系」武装勢力との統一戦線の形成に向かわせるだけだろう。「戦争は政治の継続」という古典的表現があるが、フランスおよび安保理常任5大国にEUやカナダ、またマリ周辺諸国の軍事戦略には〈政治〉がないと言わねばならない。
考えてもみたい。
たかが3000人程度のフランス軍と同規模のマリ周辺諸国連合軍によってマリの全武装勢力を「完全掃討」など、できるはずがない。このことは12年目を迎えようとするタリバン政権崩壊後のアフガニスタン戦争の実態を知る者には、まさに自明の理であるだろう。その意味では、フランスやフランスと利害・権益をともにする国々の政府は自ら進んで、また新たな「闇の奥」=「地獄の黙示録」の世界を再現し、戦慄が走るその世界に有無を言わさぬ形で私たちを引き入れようとしているのである。
私はフランスのマリ軍事介入にも、アルジェリア政府の人質事件に対する「措置」にも戦慄が走る。「アルカイダ=テロリスト」という観念の下で、戦慄を戦慄として意識する感覚が麻痺してしまうことに戦慄が走る。
私たちは--「日本社会は」と言ってもよいが--果たしてどこまでフランス政府や、今回の軍事介入を支持し「絶賛」した米国政府、さらにはフランスが「断固支持」したアルジェリア政府などと、どういう「価値観」を共有しているのか? そこからもう一度考え直したほうがよさそうである。
2
今後、場所を変えて再発するかもしれない今回のような事態に関連し、とり急ぎ指摘しておきたいことがある。それは、「テロリストとは交渉しない」という問答無用の政治的言説にこそ対テロ戦争の本質が隠されているということである。
この十数年間にわたり、「貧困」こそが「テロの温床」であるかのような言説が米国や国連から流布されてきた。しかし、そうではないと私は思う。非国家主体が武装闘争へと傾斜する契機には、国内的また国際的な政治問題の交渉による解決を、国家の側が一方的に拒否することに原因がある場合が圧倒的に多いからだ。
抑圧的国家にとって反政府勢力を押しなべて「テロリスト」と定義し、問答無用で弾圧することほど都合のよいことはない。それはまた、そうした抑圧的国家に利権を有する第三国にとっても同様である。マリのケース然り、アルジェリアのケース然りである。
とりわけ、今回のような最悪の結果を招いた人質事件の場合、私たちは国家に徹底して、最後の最後まで「テロリスト」と交渉してもらわねばならない。交渉によって救えたはずの人命も多かったに違いないからである。そして、アルカイダ「系」とはいったい具体的に何をさし、「テロリスト」とはどのような組織であり、どのような主張、要求をしているのか、メディアを通じてその交渉の全過程を世界中に明らかにしてもらわねばならない。
国家による無差別殺人=虐殺とも言える今回のような問答無用の措置、すなわち対テロ戦争に名を借りた国家による殺戮は、ただ場所を変えた非国家主体の報復を招くだけだということを、私たちは対テロ戦争12年の歴史を通じて学んだのではなかったか。
米国本土に対する9・11的自爆攻撃こそまだ起こっていないが、対テロ戦争は世界で9・11を数十倍する一般市民の犠牲を生み出してきた。軍事的にも政治的にも、そして経済的にもこの戦争は明らかに破綻しているのである。
安倍政権が今回の事態をどのように総括し、何を語るか。 相も変らぬ「日米同盟を強化し、国際社会と協調する」の繰り返しだろうか。
注目しよう。
・・・
・「皮膚の色が薄い」 マリ軍兵士が遊牧民など33人処刑か 人権団体が調査要求 (産経)
・マリで人権侵害横行=政府軍が住民殺害-人権団体 (時事)
・仏のマリ軍事介入に支持の声 (NHK)
「・・・世界経済フォーラムの年次総会、いわゆる「ダボス会議」がスイスで始まり、出席したアフリカの政府首脳からは、西アフリカのマリへのフランスの軍事介入を支持する意見が出されました・・・。
・・・ナイジェリアのジョナサン大統領は、「マリでの状況が沈静化しなければ、影響は西アフリカ諸国などに波及するだろう。われわれはフランスに感謝しなければならない」と述べ、フランス政府の軍事介入を支持する考えを示しました・・・。」
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アルジェリアの人質事件が最悪の事態となり、フランスのマリ軍事介入も人質事件同様、最悪の事態になろうとしている。このままゆけば、マリは間違いなく第二のアフガニスタン、イラク、そしてソマリアになってしまうだろう。
今回のマリ軍事介入の目的が「国土統一」にあり、イスラーム武装勢力の「完全掃討」にあるとフランス国防相が宣言してから4日が経とうとしている。しかし、すでに述べたようにマリ北部の独立あるいは連邦制的自治とトゥアレグを中心とする諸民族の集団的権利の承認なくして、マリ内戦が終息することはありえない。
また、アルカイダ「系」武装勢力とトゥアレグの武装勢力を同一視し、そのすべてを軍事的に解体することも不可能である。戦局的にフランス軍と政府軍が優勢であるかのような情報が流布されているが、それは武装勢力側が戦略的に後退し、部隊の損傷を受ける前に占領した一部南部や中部地域から撤退したため、と見るべきだろう。かれらは明らかに「地の利」を生かした持久戦に持ち込もうとしているのである。
武装勢力を含めたトゥアレグの政治勢力との和平交渉を拒否し、さらにトゥアレグの自治(autonomy)と集団的権利を全否定することは、トゥアレグの武装勢力をアルカイダ「系」武装勢力との統一戦線の形成に向かわせるだけだろう。「戦争は政治の継続」という古典的表現があるが、フランスおよび安保理常任5大国にEUやカナダ、またマリ周辺諸国の軍事戦略には〈政治〉がないと言わねばならない。
考えてもみたい。
たかが3000人程度のフランス軍と同規模のマリ周辺諸国連合軍によってマリの全武装勢力を「完全掃討」など、できるはずがない。このことは12年目を迎えようとするタリバン政権崩壊後のアフガニスタン戦争の実態を知る者には、まさに自明の理であるだろう。その意味では、フランスやフランスと利害・権益をともにする国々の政府は自ら進んで、また新たな「闇の奥」=「地獄の黙示録」の世界を再現し、戦慄が走るその世界に有無を言わさぬ形で私たちを引き入れようとしているのである。
私はフランスのマリ軍事介入にも、アルジェリア政府の人質事件に対する「措置」にも戦慄が走る。「アルカイダ=テロリスト」という観念の下で、戦慄を戦慄として意識する感覚が麻痺してしまうことに戦慄が走る。
私たちは--「日本社会は」と言ってもよいが--果たしてどこまでフランス政府や、今回の軍事介入を支持し「絶賛」した米国政府、さらにはフランスが「断固支持」したアルジェリア政府などと、どういう「価値観」を共有しているのか? そこからもう一度考え直したほうがよさそうである。
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今後、場所を変えて再発するかもしれない今回のような事態に関連し、とり急ぎ指摘しておきたいことがある。それは、「テロリストとは交渉しない」という問答無用の政治的言説にこそ対テロ戦争の本質が隠されているということである。
この十数年間にわたり、「貧困」こそが「テロの温床」であるかのような言説が米国や国連から流布されてきた。しかし、そうではないと私は思う。非国家主体が武装闘争へと傾斜する契機には、国内的また国際的な政治問題の交渉による解決を、国家の側が一方的に拒否することに原因がある場合が圧倒的に多いからだ。
抑圧的国家にとって反政府勢力を押しなべて「テロリスト」と定義し、問答無用で弾圧することほど都合のよいことはない。それはまた、そうした抑圧的国家に利権を有する第三国にとっても同様である。マリのケース然り、アルジェリアのケース然りである。
とりわけ、今回のような最悪の結果を招いた人質事件の場合、私たちは国家に徹底して、最後の最後まで「テロリスト」と交渉してもらわねばならない。交渉によって救えたはずの人命も多かったに違いないからである。そして、アルカイダ「系」とはいったい具体的に何をさし、「テロリスト」とはどのような組織であり、どのような主張、要求をしているのか、メディアを通じてその交渉の全過程を世界中に明らかにしてもらわねばならない。
国家による無差別殺人=虐殺とも言える今回のような問答無用の措置、すなわち対テロ戦争に名を借りた国家による殺戮は、ただ場所を変えた非国家主体の報復を招くだけだということを、私たちは対テロ戦争12年の歴史を通じて学んだのではなかったか。
米国本土に対する9・11的自爆攻撃こそまだ起こっていないが、対テロ戦争は世界で9・11を数十倍する一般市民の犠牲を生み出してきた。軍事的にも政治的にも、そして経済的にもこの戦争は明らかに破綻しているのである。
安倍政権が今回の事態をどのように総括し、何を語るか。 相も変らぬ「日米同盟を強化し、国際社会と協調する」の繰り返しだろうか。
注目しよう。
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・「皮膚の色が薄い」 マリ軍兵士が遊牧民など33人処刑か 人権団体が調査要求 (産経)
・マリで人権侵害横行=政府軍が住民殺害-人権団体 (時事)
・仏のマリ軍事介入に支持の声 (NHK)
「・・・世界経済フォーラムの年次総会、いわゆる「ダボス会議」がスイスで始まり、出席したアフリカの政府首脳からは、西アフリカのマリへのフランスの軍事介入を支持する意見が出されました・・・。
・・・ナイジェリアのジョナサン大統領は、「マリでの状況が沈静化しなければ、影響は西アフリカ諸国などに波及するだろう。われわれはフランスに感謝しなければならない」と述べ、フランス政府の軍事介入を支持する考えを示しました・・・。」