マリを「第二のソマリア」にしてはならない
~フランスの軍事介入が失敗に終わる理由
⇒アルジェリアで複数の日本人拘束(産経号外、pdf)
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、マリでは昨年11月段階において、すでに20万以上にのぼる国内難民が家屋を追われ、北部から南部へ、あるいはニジェール、モーリタニア、ファソなどの周辺諸国へと逃れていたいたという。また、この間の旱魃と飢饉による難民を加えると35万人が難民化しているという。UNHCRはさらに、オランデ・フランス社会党政権による今回の北部主要都市に対する空爆が開始されて以降、この数日間において確認されているだけでも1万人を超える人々が国内外の「難民キャンプ」に逃れていると報告している。
UNHCRは、マリでのミッションを展開するのに資金不足だと嘆いている。各国に要求している額の6割程度しか集まっていないと。
しかし、本当にUNHCRが難民の帰還と、これ以上の犠牲者を出さないことを望むのであれば、UNHCRは国連の一機関、しかも人権・人道機関として軍事介入の当事国である安保理常任理事国たる仏米英と安保理に対し、
①空爆・戦闘行為の即時停止と、
②「暫定政府」と北部武装勢力との停戦-和平交渉の調停の開始を提案すべきではないのか?
戦闘行為の中止も、和平交渉の調停もなく、半永久的に国家と非国家武装組織によるテロの応酬が続いてゆく・・・。 ソマリア、アフガニスタン、イラク、リビア、シリア、そしてマリ・・・。これはいったい何なのか?
まさにこれこそが、2001年「9・11」に始まった対テロ戦争時代たる現代の「戦争と平和」の現実なのだが、安保理常任5カ国が意思決定を左右する国連システムも、また個別の国家も対テロ戦争を停止する気配はみられない。 「オバマの暗殺リスト」にみてとれるように、むしろ永続化させることを望んでいるかのようだ。
国家と非国家主体によるテロの応酬戦の犠牲になるのは、いつの時代も、どこの国・地域でも非戦闘員である。非戦闘員の犠牲を出さない戦争など歴史上、存在したためしがない。 言うまでもなく、対テロ戦争もその例外ではない。殺されるのは「テロリスト」だけではない。
対テロ戦争が永続化し、その最大の犠牲になるのが常に非戦闘員であるなら、いつか、どこかで私たちは国家と武装勢力によるテロの応酬戦に歯止めをかけねばならない。 マリ内戦において、その可能性はどこに見出せるだろうか。
〈トゥアレグとマイノリティの集団的権利の保障 --マリ内戦停止と和平の条件〉
① 1960年代から半世紀にわって続くトゥアレグのマリ中央政府に対する叛乱には、中央政府による歴史的なトゥアレグに対する民族差別の歴史が横たわっている。
私たちが知っておかねばならないのは、「アルカイダと関係/連携するイスラーム武装勢力」が北部において軍事的に影響力を行使するようになるのは、半世紀におよぶトゥアレグの民族運動の歴史から見れば、ほんの一時期、この数年のことに過ぎないということだろう。しかも、トゥアレグのすべてがイスラーム教徒でもなければ、アルカイダ系武装組織を支持しているわけでもない。
つまり。オランデ政権やオバマ政権が軍事介入の正当化の根拠としている 「アルカイダ系テロリストとの戦い」という言説自体が、歴代マリ中央政府によるトゥアレグに対する民族差別や民族運動への弾圧という、マリ内戦がかかえる本質的で政治的な問題を見えなくさせているのである。
② 戦闘行為の停止と和平交渉の開始のために必要なことは、フランスとその連合軍、および政府軍による北爆と北進の中止、また武装勢力側の南進の中止である。そして停戦ラインの確定である。
事態はすでに、非和解的な内戦の長期化と泥沼化、マリの「第二のソマリア化」に向けて絶望的に歩みだしている。しかし、これ以上のマリにおける対テロ戦争=内戦の犠牲者を出さないための必要最低条件はこれ以上に考えられない。 問題は、本来であれば国連の紛争仲裁機関がそのための役割を果たすべきなのだが、とても現事務総長下の国連からそのようなことを期待することはできないこと、まだどの第三国・国際機関もそうした調停に向けた動きを見せていないことである。
③ マリ北部の「連邦制的自治」の承認
南スーダンのように、昨春「独立宣言」を発した「アザワド」の分離・独立を南の中央政府と国際社会が承認することが、内戦終結-和平合意の締結に向けた最短の道だと私は思う。しかし、現実には、マリ周辺諸国と「国際社会」の承認と圧力がなければ南の「暫定政権」がこの案を受け入れるとは思えない。
すでにみたようにトゥアレグ民族の居住地域は周辺4カ国を中心とし、さらにその他諸国にも広がっており、アザワドの独立承認は即座にマリ以外の国々における国家内のトゥアレグその他諸民族の独立・解放運動に飛び火するからである。
(→しかし、だとしたら「なぜ南スーダンの独立が可能となったのか?」、このことからもう一度私たちは考え直す必要に迫られそうである。その意味では、アザワドの分離・独立が現実論としてありえないのではなく、トゥアレグの民族的権利を取り巻く「現実政治」がアザワドの誕生をありえないもの、と私たちに観念させているだけと言うこともできる。)
けれども、さらにその一方で、アザワドの「独立宣言」はすでに一つの歴史的事実として存在している。この歴史的事実を抹殺することが今回のフランスの軍事介入の目的になっているようにも見受けられるが、「アルカイダ系」ではないツゥアレグの武装組織にとって、そんなことが容認できるはずはない。
④ ここでもう一つ、マリ内戦の早期停戦を実現するために「国際社会」が知っておかねばならないことがある。それは、昨春のアザワド独立宣言以前に、北部武装勢力と中央政府との間で度重なる停戦交渉と和平合意が繰り返されていたこと、そして「独立宣言」は2006年7月の停戦-和平合意が破綻した結果の産物だったということである。
下の参考サイトにある「アルジェリア合意」に至る過程、またその後の合意の破産の過程については触れる余裕がない。
ここで重要なことは、この合意に向けた交渉過程において当初「北部におけるトゥアレグの自治」を要求項目にあげていたトゥアレグ側が、マリの「主権的統一」の保持を譲らなかった中央政府側に妥協し、「自治」の要求を取り下げたことである。
主な合意事項が、
1、 「治安」(麻薬・武器密輸・人身売買などに対する治安の強化を意味している)と
2、「経済成長(発展)」(アフリカ第三の金産出国であるにもかかわらず、中央政府の差別的政策の結果、絶対的貧困にあえぐ北部国境地帯への行政サービスと社会的資本投下を意味している)となっているのは、そのためである。
「アルカイダ系イスラーム過激派撲滅」を口実した今回のフランスの軍事介入と、クーデターにクーデターに繰り返してきたマリ中央政府軍、そしてこれを支援する米英加(カナダはすでに後方支援のための軍を派兵し今回の軍事介入に参戦している)、そして西アフリカ諸国の本当の狙いがトゥアレグの民族自決と自治を求めるたたかいを抑圧し、押しつぶすことにあることは、以上の歴史的経緯からも明白だと言わねばならないだろう。
(つづく)
【参考サイト】
・Mali: A Timeline of Northern Conflict(allAfrica.com)
4 July 2006: Accords of Algiers signed by government and ADC, with peace agreement focusing on need to bring security and economic growth to Kidal, Mali's 8th region and the most remote from the capital.
・・・
・マリ中部の都市を武装勢力が制圧 各国が対応を協議
「・・・イスラム武装勢力が中部の都市ディアバリを制圧した。ルドリアン仏国防相の話としてCNN系列局BFMテレビが伝えた・・・。
・・・フランスの国連大使は、首都バマコを武装勢力に制圧される事態を阻止するために介入が必要だったと強調、「国家としてのマリの存続、ひいては西アフリカの安定がかかっていると判断した」「軍事介入のほかに選択肢はなかった」と語った・・・」 (CNN 1/15)
・マリ駐留仏軍、拠点奪回へ初の地上攻撃か
「・・・仏軍は空爆主体の作戦を転換、初の地上攻撃に向け動き出した模様だ。 AFP通信によると、仏軍は装甲車約30台を連ねて15日、首都バマコを出発した。バマコ北方400キロのディアバリを目指していると見られ、マリ治安関係者は「我々は仏軍と共に明日までにディアバリを奪回する」と述べた。 ディアバリはマリ政府の支配下にあったが、武装勢力が14日、空爆をかいくぐり南進、占拠しており、仏側は危機感を強めていた。
ルドリアン仏国防相は・・・、仏軍の空爆は1700人体制で行っていると述べた。アフリカ中北部のチャドや仏本土が戦闘機の出撃地となっている。国防相はまた、マリ中部の要衝コンナを武装勢力から奪回できていないことも明らかにした」(読売 1/16)
・フランス、マリへ増派 2500人規模に
「・・・増派の具体的な時期は不明だが、仏軍は段階的に兵力を増強し、イスラム過激派への圧力を強める構え。過激派は近代的な装備を整えているとも伝えられており、今後は仏軍との戦闘が泥沼化する懸念もある。オランド大統領は「マリの安全が確保できればアフリカの人々に(今後の対応を)委ねる」と述べ、問題の解決に積極関与するよう周辺国に促した・・・」(日経 1/16)
・マリ:仏地上部隊が進攻 中部の武装勢力拠点奪還へ (毎日 1/16)
~フランスの軍事介入が失敗に終わる理由
⇒アルジェリアで複数の日本人拘束(産経号外、pdf)
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、マリでは昨年11月段階において、すでに20万以上にのぼる国内難民が家屋を追われ、北部から南部へ、あるいはニジェール、モーリタニア、ファソなどの周辺諸国へと逃れていたいたという。また、この間の旱魃と飢饉による難民を加えると35万人が難民化しているという。UNHCRはさらに、オランデ・フランス社会党政権による今回の北部主要都市に対する空爆が開始されて以降、この数日間において確認されているだけでも1万人を超える人々が国内外の「難民キャンプ」に逃れていると報告している。
UNHCRは、マリでのミッションを展開するのに資金不足だと嘆いている。各国に要求している額の6割程度しか集まっていないと。
しかし、本当にUNHCRが難民の帰還と、これ以上の犠牲者を出さないことを望むのであれば、UNHCRは国連の一機関、しかも人権・人道機関として軍事介入の当事国である安保理常任理事国たる仏米英と安保理に対し、
①空爆・戦闘行為の即時停止と、
②「暫定政府」と北部武装勢力との停戦-和平交渉の調停の開始を提案すべきではないのか?
戦闘行為の中止も、和平交渉の調停もなく、半永久的に国家と非国家武装組織によるテロの応酬が続いてゆく・・・。 ソマリア、アフガニスタン、イラク、リビア、シリア、そしてマリ・・・。これはいったい何なのか?
まさにこれこそが、2001年「9・11」に始まった対テロ戦争時代たる現代の「戦争と平和」の現実なのだが、安保理常任5カ国が意思決定を左右する国連システムも、また個別の国家も対テロ戦争を停止する気配はみられない。 「オバマの暗殺リスト」にみてとれるように、むしろ永続化させることを望んでいるかのようだ。
国家と非国家主体によるテロの応酬戦の犠牲になるのは、いつの時代も、どこの国・地域でも非戦闘員である。非戦闘員の犠牲を出さない戦争など歴史上、存在したためしがない。 言うまでもなく、対テロ戦争もその例外ではない。殺されるのは「テロリスト」だけではない。
対テロ戦争が永続化し、その最大の犠牲になるのが常に非戦闘員であるなら、いつか、どこかで私たちは国家と武装勢力によるテロの応酬戦に歯止めをかけねばならない。 マリ内戦において、その可能性はどこに見出せるだろうか。
〈トゥアレグとマイノリティの集団的権利の保障 --マリ内戦停止と和平の条件〉
① 1960年代から半世紀にわって続くトゥアレグのマリ中央政府に対する叛乱には、中央政府による歴史的なトゥアレグに対する民族差別の歴史が横たわっている。
私たちが知っておかねばならないのは、「アルカイダと関係/連携するイスラーム武装勢力」が北部において軍事的に影響力を行使するようになるのは、半世紀におよぶトゥアレグの民族運動の歴史から見れば、ほんの一時期、この数年のことに過ぎないということだろう。しかも、トゥアレグのすべてがイスラーム教徒でもなければ、アルカイダ系武装組織を支持しているわけでもない。
つまり。オランデ政権やオバマ政権が軍事介入の正当化の根拠としている 「アルカイダ系テロリストとの戦い」という言説自体が、歴代マリ中央政府によるトゥアレグに対する民族差別や民族運動への弾圧という、マリ内戦がかかえる本質的で政治的な問題を見えなくさせているのである。
② 戦闘行為の停止と和平交渉の開始のために必要なことは、フランスとその連合軍、および政府軍による北爆と北進の中止、また武装勢力側の南進の中止である。そして停戦ラインの確定である。
事態はすでに、非和解的な内戦の長期化と泥沼化、マリの「第二のソマリア化」に向けて絶望的に歩みだしている。しかし、これ以上のマリにおける対テロ戦争=内戦の犠牲者を出さないための必要最低条件はこれ以上に考えられない。 問題は、本来であれば国連の紛争仲裁機関がそのための役割を果たすべきなのだが、とても現事務総長下の国連からそのようなことを期待することはできないこと、まだどの第三国・国際機関もそうした調停に向けた動きを見せていないことである。
③ マリ北部の「連邦制的自治」の承認
南スーダンのように、昨春「独立宣言」を発した「アザワド」の分離・独立を南の中央政府と国際社会が承認することが、内戦終結-和平合意の締結に向けた最短の道だと私は思う。しかし、現実には、マリ周辺諸国と「国際社会」の承認と圧力がなければ南の「暫定政権」がこの案を受け入れるとは思えない。
すでにみたようにトゥアレグ民族の居住地域は周辺4カ国を中心とし、さらにその他諸国にも広がっており、アザワドの独立承認は即座にマリ以外の国々における国家内のトゥアレグその他諸民族の独立・解放運動に飛び火するからである。
(→しかし、だとしたら「なぜ南スーダンの独立が可能となったのか?」、このことからもう一度私たちは考え直す必要に迫られそうである。その意味では、アザワドの分離・独立が現実論としてありえないのではなく、トゥアレグの民族的権利を取り巻く「現実政治」がアザワドの誕生をありえないもの、と私たちに観念させているだけと言うこともできる。)
けれども、さらにその一方で、アザワドの「独立宣言」はすでに一つの歴史的事実として存在している。この歴史的事実を抹殺することが今回のフランスの軍事介入の目的になっているようにも見受けられるが、「アルカイダ系」ではないツゥアレグの武装組織にとって、そんなことが容認できるはずはない。
④ ここでもう一つ、マリ内戦の早期停戦を実現するために「国際社会」が知っておかねばならないことがある。それは、昨春のアザワド独立宣言以前に、北部武装勢力と中央政府との間で度重なる停戦交渉と和平合意が繰り返されていたこと、そして「独立宣言」は2006年7月の停戦-和平合意が破綻した結果の産物だったということである。
下の参考サイトにある「アルジェリア合意」に至る過程、またその後の合意の破産の過程については触れる余裕がない。
ここで重要なことは、この合意に向けた交渉過程において当初「北部におけるトゥアレグの自治」を要求項目にあげていたトゥアレグ側が、マリの「主権的統一」の保持を譲らなかった中央政府側に妥協し、「自治」の要求を取り下げたことである。
主な合意事項が、
1、 「治安」(麻薬・武器密輸・人身売買などに対する治安の強化を意味している)と
2、「経済成長(発展)」(アフリカ第三の金産出国であるにもかかわらず、中央政府の差別的政策の結果、絶対的貧困にあえぐ北部国境地帯への行政サービスと社会的資本投下を意味している)となっているのは、そのためである。
「アルカイダ系イスラーム過激派撲滅」を口実した今回のフランスの軍事介入と、クーデターにクーデターに繰り返してきたマリ中央政府軍、そしてこれを支援する米英加(カナダはすでに後方支援のための軍を派兵し今回の軍事介入に参戦している)、そして西アフリカ諸国の本当の狙いがトゥアレグの民族自決と自治を求めるたたかいを抑圧し、押しつぶすことにあることは、以上の歴史的経緯からも明白だと言わねばならないだろう。
(つづく)
【参考サイト】
・Mali: A Timeline of Northern Conflict(allAfrica.com)
4 July 2006: Accords of Algiers signed by government and ADC, with peace agreement focusing on need to bring security and economic growth to Kidal, Mali's 8th region and the most remote from the capital.
・・・
・マリ中部の都市を武装勢力が制圧 各国が対応を協議
「・・・イスラム武装勢力が中部の都市ディアバリを制圧した。ルドリアン仏国防相の話としてCNN系列局BFMテレビが伝えた・・・。
・・・フランスの国連大使は、首都バマコを武装勢力に制圧される事態を阻止するために介入が必要だったと強調、「国家としてのマリの存続、ひいては西アフリカの安定がかかっていると判断した」「軍事介入のほかに選択肢はなかった」と語った・・・」 (CNN 1/15)
・マリ駐留仏軍、拠点奪回へ初の地上攻撃か
「・・・仏軍は空爆主体の作戦を転換、初の地上攻撃に向け動き出した模様だ。 AFP通信によると、仏軍は装甲車約30台を連ねて15日、首都バマコを出発した。バマコ北方400キロのディアバリを目指していると見られ、マリ治安関係者は「我々は仏軍と共に明日までにディアバリを奪回する」と述べた。 ディアバリはマリ政府の支配下にあったが、武装勢力が14日、空爆をかいくぐり南進、占拠しており、仏側は危機感を強めていた。
ルドリアン仏国防相は・・・、仏軍の空爆は1700人体制で行っていると述べた。アフリカ中北部のチャドや仏本土が戦闘機の出撃地となっている。国防相はまた、マリ中部の要衝コンナを武装勢力から奪回できていないことも明らかにした」(読売 1/16)
・フランス、マリへ増派 2500人規模に
「・・・増派の具体的な時期は不明だが、仏軍は段階的に兵力を増強し、イスラム過激派への圧力を強める構え。過激派は近代的な装備を整えているとも伝えられており、今後は仏軍との戦闘が泥沼化する懸念もある。オランド大統領は「マリの安全が確保できればアフリカの人々に(今後の対応を)委ねる」と述べ、問題の解決に積極関与するよう周辺国に促した・・・」(日経 1/16)
・マリ:仏地上部隊が進攻 中部の武装勢力拠点奪還へ (毎日 1/16)