2013年11月11日月曜日

『福島と生きる』メールマガジン 特別号No.4-2

『福島と生きる』メールマガジン 特別号No.4-2
――息長く〈福島〉とつながり続けるために――

2013年11月11日発行(不定期刊)
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インタビュー
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満田夏花さん(FoE Japan )
――行政の責任を問い続け、被災者支援と脱原発の運動を広げたい
パート2

<目次>
I 被災者支援の運動を広げるには何が必要か
II 脱原発運動と被災者支援運動
III 運動を未来につなげるために


I 被災者支援の運動を広げるには何が必要か

Q1  被災者支援を進める上で最大の障壁は何でしょうか?

満田  やはり、低線量被ばくの過小評価と、それに基づく帰還促進政策偏重がネックです。子ども・被災者支援法(「支援法」)は避難、居住、帰還と、どれを選択しても、それぞれのニーズに応えるという中立的な趣旨の法律です。ところが、10月11日に閣議決定された支援法の基本方針は避難者向けの政策が少なく、とくに新規避難者に対して冷たい内容です。

借り上げ住宅の新規申し込は、帰還政策とバッティングするという理由で昨年12月に打ち切られました。支援対象地域の基準を放射線量年1mSvにしようとしないのも、1mSvにならないと戻らないと言われると困るから、風評被害が起きると困るからというのが理由でしょう。支援法自体は中立的なのですが、国や福島県は帰還に対するインセンティブをつけたいと考えているのではないでしょうか。

Q2  原子力災害に限らず、災害が起きると国や行政は災害前の枠組みを復元しようと動きます。しかし、一人一人の市民にとっては既存の自治体イコール自分のコミュニティではない。原子力災害においては、既存の自治体を復元したからといって必ずしも以前の生活に戻れるわけではなく、避難・移住も視野に入れなければならない。

つまり、既存の自治体を復元するという枠組みを取り払わないと、住民の権利を守ることはできません。インセンティブを与えて帰還を促進するのは、帰還できない・しない住民には不利になり、住民の間に差別化を持ち込むことにつながります。今後、帰還を促す動きは続いていくでしょうから、こうしたより根本的な点を問うことが必要になってくると思いますが、その点をどう考えますか?

満田  先日、自民党の提言で、「原発事故の影響で避難している住民全員の帰還を事実上、断念」という報道がながれましたが、それは帰宅困難区域などもっとも汚染が厳しい区域についてであり、帰還促進政策そのものを覆すことはできないと思います。

 一方で、帰還したくない人が現にいます。その人たちへの賠償の打ち切りなどの不利益が生じないようにすることはできるはずですし、やるべきだと思います。帰還運動が住民間に差別を持ち込むものだという認識は、被災者支援に関わっている人たちの間でも共有されています。行政は帰還することにインセンティブを与えようとしていますが、私たちはそれが避難する人の不利益に
つながることがあってはならないと要求しています。

 費用については、行政は明らかにケチっていて、ハードのインフラ整備などには資金を注ぐのに、個人がそれぞれの選択に基づき、生活を再建するというニーズにはお金をかけていません。「支援法の支援対象地域をこれこれとすると、これぐらいの費用がかかる」という試算さえ出ていません。いままで、「除染する」ということで、避難を抑制してきたのに、除染が効果があがらないとみると、今度は、「公衆の被ばく限度年1ミリシーベルト」という除染の長期目標すら見直しかねない状況です。

Q3  被災者・市民の声をもっと強くするにはなにが必要でしょうか? 政党や議員への働きかけですか? 世論を盛り上げたりマスコミ対策の方が重要でしょうか?

満田  いまの状況では議員と政党にはあまり大きな期待はできません。ですから世論とマスコミへの働きかけが必要です。10月4日に「放射能からこどもを守ろう関東ネット」のお母さんたちが、福島県外でのホットスポットにおける健診の実施を求めて、復興庁・環境省・文部科学省との交渉を行いました。事故前は政府との交渉なんて思いもよらなかった人たちが、復興庁相手に丁々発止の交渉をしていました。彼女たちは自分たちが当事者だという意識が強くあり、それが多くの人の共感を集めています。

 支援法というのは原発再稼働問題のように人がたくさん集まるようなイシューではありませんが、丁寧に話せばみなさん納得して何かしら動いてくれます。反原発運動の人たちも共感してくれ、地元の議員に対して働きかけます、という声が出てきます。やはり世論とマスコミに働きかけるのが一番重要になると思います。

 その際、一般の人たちに耳を傾けてもらえる工夫が必要だと思います。再稼働反対デモでは、訴えがあまりに熱狂的すぎて、一般市民から浮いている感じがします。大声を出して再稼働反対を訴えるのも重要ですが、一般の通行人の中にはすごく嫌がる人もいます。反対のための反対ではいけないと思います。街頭行動の目的は、街ゆく人に、原発反対の主張が「たしかにそうだ」と思わせることです。そこをもっと気をつけなければならないと、私自身も自戒しています。


II 脱原発運動と被災者支援運動

Q4  脱原発運動の中でも「福島を忘れない」という集会スローガンに象徴されるように、被災者支援を意識化しようという動きもあります。それでも、反原発運動の中で被災者支援という課題が大きな位置を占めていないような印象があります。たとえば、8月30日に、支援法基本方針案に対する共同声明(「被災者の声なきままの基本方針案は手続き違反」)が、FoEをはじめ数多くの被災者グループや市民グループの連名で提出されました。http://shiminkaigi.jimdo.com/2013/08/30/statement/

 これほど重大な問題に関する声明ですから、本来なら、各地の反原発運動の団体や労働組合、教職員グループ、いろいろな社会問題にとりくむ団体など、全国各地の幅広い分野の団体や著名人が名を連ねてしかるべきだと思います。脱原発・再稼動反対の声はこれほど大きくて広範なのに、それに比して被災者支援という課題が、なぜそれほど大きく扱われていないのか。

 福島からは「脱原発は東京の暇な人がやってくれ」という声もあると聞きます。それは、脱原発に反対ということではなく、政府や自治体が責任ある政策を打ち出さない中、生活や将来の健康に関して不安を抱える人々から見て、脱原発運動の打ち出すメッセージの中に、自分たちのおかれた境遇への関心や共感、連帯感が感じられないと思っているからではないでしょうか。

 脱原発運動と被災者支援運動は別物であってはならないと思いますが、別もののように見えるのはなぜだと思いますか?また、脱原発運動の中で被災者支援という課題をもっと多くの人たちに取り組んでもらえるようにするために、何が必要だと考えますか?

満田  脱原発運動に関わっている人たちも多様です。でも、支援法に関して議員への働きかけや政党への働きかけの呼びかけに対してすぐに動いてくれたのは、昔から反原発運動をやってきた人たちでした。みなさん社会問題に敏感で、被害者が苦しんでいるのに黙ってはいられないという人たちです。

 全体的にはよくわかりませんが、「福島を忘れるな」がキャッチフレーズになっているし、大きな集会では必ず福島の人が話をします。いま脱原発にとりくむ人たちのモチベーションは、やはり福島にあるのではないかと思います。それがないとしたら問題です。

 たしかに、反原発運動をやってきた人たちにとって、支援法問題はメインのテーマではありませんでした。でも、共感してくれる人は多いのです。基本方針の閣議決定を前に、半ばあきらめかけていたら、関西の反原発運動をしている方が「政党への働きかけをすべきだ」と提案してくれて、政党回りを呼び掛けるとびっくりするぐらい多くの方が熱心に回ってくれました。

 つい最近反原発運動を始めたようなグループも、地元の神奈川でいろいろ働きかけをし、神奈川に避難している人たちとも関係を作って、議員訪問などをしてます。九州でも、私が会ったこともないような人たちが、九州に避難している人たちと一緒になって、各地で議員訪問をしてくれて、逆に私にアドバイスをくれました。この議員がポイントらしいとか、この人にコンタクトした方がいいとか。そして、わざわざ東京にも来てくれ、国会議員まわりにも参加してくれました。
 こうして、各地で、反原発に取り組む市民たちが、避難者と一緒に行動してくれたのは、この先につながる明るい材料です。


III 運動を未来につなげるために

Q5  FoE Japanをはじめ、脱原発運動でもっと強化すべきだと思うのはどういうところですか?若者の間で、たんにイベントの手伝いをするとか集会に参加するといったところから一歩踏み込んで、運動の作り手になっていくという動きは見られますか?また新しい活動の担い手を育てるために意識していることはありますか?

満田  FoE自体の話をすれば、一番頭が痛いことは、財政的にピンチだということです。2011年、2012年は寄付金もあったのですが、いまはそれも尽きて来ました。団体への寄付はいまも続いていますが、全体的には減ってきているし、助成金も減りました。

 FoEは原発・福島支援について3人の有給スタッフを擁してフルタイムで活動しています。私は福島関係と再稼働・汚染水問題、規制問題を担当しています。その他にエネルギー政策や若者向けの活動の担当者と、原発事故こども・被災者支援市民会議の担当者がいます。他に5人くらいのボランティアやインターンの人たちが強力に支えてくれています。ボランティアやインターンの方は、
企画に参加したり、セミナーや集会の運営を手伝ってくれたり、福島でやっている子どもたちの保養プロジェクトの実際の担い手にもなってくれています。 

 残念ながら活動に参加する若い人は増えていないです。自ら動いて頑張っているのは30代以上で、20代ではイベントに参加したりする人はいますが、担い手としては少ないです。でも例外もいます。自らベラルーシに行った経験を活かして、ベラルーシの若者たちとの交流事業を考えてくれる若者もいました。また、FoEではインターンの若者たちが企画してくれた「エネルギーを若者向けに」というセミナーをやったりしています。インターンも募集しています。 

 FoEの原発・福島チームのインターンやボランティアをやめた後、自分で活動を始める人もいます。たとえば、FoEの保養プログラム「ぽかぽかプロジェクト」を手伝ってくれていた学生が、自分で資金を集めて東京で保養プログラムを立ち上げました。

 
Q6 原発や福島に関して何かしたいという人に、FoEはどういう活動を提案しますか?また、どういう応援がほしいですか?

満田  私たちが取り組んでいる問題は、たとえば福島支援など、ときに「私たちには関係ない」と無視されるようなものもあります。そういう状態を変えたいと思い自分で動く人たちと一緒に活動したいですね。

 応援でほしいのは「参加」「寄付」「発信」でしょうか。私たちの活動は、街頭での一般の人たちに訴える行動から、国会議員や政府に対する政策提言まで多岐にわたっています。いずれにしても、たくさんの市民が関心を持っているんだということを政府に見せることが大きな力になります。
 
 また、活動を継続するための資金が不足しています。「寄付」によってFoEを支えてください。

  「発信」については、たとえば若者に伝わるような仕方の発信や、マスメディア向けの発信、原発立地の住民向けなど、相手に応じた発信をできる人がいるといいと思います。

 街頭行動でも人を振り向かせるような発信の仕方が必要だと思います。人は一瞬で通り過ぎて行ってしまいますから、立ち止まらせるような工夫が必要です。同じ考えをもつ仲間同士で燃えあがろう、というのもいいですが、通りすがりの人にも「なるほど」と思わせるような、再稼働に関わる経済問題とか、福島のリアルな状況とか、何か目新しい情報を入れる、人の心を捉える工夫が重要だと思います。


(2013年10月5日、8日のインタビューをもとに構成
インタビュアー/文責:『福島と生きるメールマガジン』)

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『福島と生きる』メールマガジン 特別号No.4-2
(2013年11月11日発行)
※『福島と生きる』メールマガジンは、『福島と生きる--国際NGOと市民運動の新たな挑戦』の共同執筆者の団体や活動の関連情報を発信していきます。

発行人=中野憲志・藤岡美恵子(『福島と生きる--国際NGOと市民運動の新たな挑戦』共編者)

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20ミリ以下、大きな影響なし 規制委、住民帰還で提言へ
 東京電力福島第1原発事故で避難している住民の帰還に向け、放射線防護対策の提言を検討している原子力規制委員会が、年間の追加被ばく線量が20ミリシーベルト以下であれば健康に大きな影響はないという見解を提言に盛り込む方針を固めたことが8日、分かった。
 放射線防護対策を議論する11日の検討チームで提言案を示し、月内にもまとめる。規制委の提言を受け、政府は住民帰還に向けた具体的な放射線対策を年内にとりまとめる方針。(共同、11/9)

米懸念受け原発ゼロ法制化見送る 開示公文書で経緯判明
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 法制化を断念した理由について、関係者は「ねじれ国会」や米政府の懸念があったと証言。新政策の法的位置づけがあいまいになった結果、現在の安倍政権の原発回帰につながった可能性がある。 多くの国民が今も求める原発ゼロを法制化する試みが挫折した詳細な過程が判明した。(共同)