2013年7月20日土曜日

「子ども・被災者支援法」制定一年 動かない支援策 (吉野裕之さんインタビュー パート2)

「子ども・被災者支援法」制定一年 動かない支援策
吉野裕之さん(子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク)インタビュー

『福島と生きる』メールマガジン特別号 No.2-2
(2013年7月20日発行)

パート2

目次
・ 「子ども・被災者支援法」――方針策定に当事者の声は反映されるのか?
・ 国主導の検診制度と住宅延長・住み替え支援を 
・ 支援策が動いていないのはなぜか


I  「子ども被災者支援法」――方針策定に当事者の声は反映されるのか?

Q1   子ども福島ネットも関わっている「原発事故子ども・被災者支援法市民会議」(市民会議)は次の4点の要望を出しています。
(1)「支援対象地域(支援法第8条)」の設定は年間1ミリシーベルトを基準に、
(2)基本方針、個別施策実施に当事者の声を、
(3)早期の予算確保で着実な
支援を、(4)広範囲かつ継続的な検診制度を国の主導で。

(2)について現状、当事者の声がどのくらいまで反映されているのかいないのかについてお聞かせください。(※3)

※3  市民会議による「政府による1年間にわたる不作為に抗議し原発事故子ども・被災者支援法に基づく基本方針の速やかな策定を求める声明」
(2013年6月21日)も参照。(http://shiminkaigi.jimdo.com/

吉野  被災者自身の声がどのように反映されるのか、今のところ明らかになっている事はありません。基本的に当事者の声をききながらプランを作成しないといけないと法律に書いてあるのに、国が主催する形のヒアリングは一度も行われていません。

 これまで行われた意見聴取のようなものは、たとえば市民会議が主催した院内集会に復興庁が来る、そこでお母さんたちが発言する、それを聞いてもらう、という段取りが設定された場面に国の担当者が来るというものばかりです。呼ばれると出かけて行って、意見を聞くんだけれども、やっぱり「ちゃんと聞いてないでしょ、あなた!」と途中で叱責されたりする。

 復興庁の水野参事官の暴言ツイートが問題になっていますが、職員仲間や国会議員がフォローしていながら放置していたことが分かっています。市民会議として調査を要求していますが、例の「今日は懸案が一つ解決。正確にいうと白黒つけずあいまいなままにしておくことに、関係者が同意しただけなんだけど、こういう解決策もあるということ」というツイートは何のことを指しているのか?

 実は既存の支援パッケージを出してきたその一週間前にそのツイートがあったのです。一連の流れを見ていくと、これは個人の問題ではなく復興庁のとりくみの姿勢そのものを彼が体現しているということになると思います。

 6月14日行われた市民会議の緊急集会で、平成25年度予算で何か具体的に動いているものがあるのかと改めて尋ねました。概算要求は6,7,8月と動くので25年度予算で動けていない以上、来年度予算にはきちんと入れていかなければならない。その協議テーブルには被災者本人も入りますよね、と念を押しておきました。

 支援対象地域の決定については、復興庁が原子力規制委員会に下駄を預けてしまったので、結論は12月まで待たないといけない。しかし12月まで待っていると来年度の予算はとれないので、再来年度になってしまう。そこでなんとか協議を通じて進めて行かないとだめなのだと思うのです。

Q2  当事者が常に方針策定の段階に関わるという枠組みを作りたいということですね。

吉野  そうです。帰還したお母さん、避難したお母さん、在住しているお母さん、保育園に子どもを通わせているお母さん、それぞれ立場は違えど同じことを心配しているのです。アプローチによって支援策が違うので、そこを理路整然ととりまとめ、きちんと動くように監督するのが復興庁の仕事です。安倍首相も復興庁の権限を強化すると言いましたが、どこをどう強化するのかが問題です。

 復興庁とは個別に協議もしていて、25年度予算のうち保養プログラムに使えるもの、しかもこれから申し込みが可能なものを洗い出し、担当部局と担当者の名前と連絡先を公開してくださいと要望しました。それはもう復興庁のホームページに出ています。これは具体的に要望して動いてもらえた例です。

 いま掲載されているもののうち、保養プログラムに応用可能なものについての情報をいくつかのネットワークに流しました。夏休みの保養プログラムに、たとえば植樹などを入れると農水省の予算がつくとか、そういう工夫について紹介しています。国も施策への理解や参加度合いも深まり、良い事だと思います。


II 国主導の検診制度と住宅住み替え支援を
Q3  検診制度について、福島県は甲状腺の検査結果だけは公表しました(※4)。
 今後どういう施策を政府に求めて行く計画ですか?

吉野  県民健康管理調査はあくまでも福島県民のためのものです。これから支援対象地域が千葉とか、その他の年間1ミリシーベルト以上のところになっていけば、県域を越えて国が管轄する調査が必要になります。いま除染を管轄しているのは環境省ですが、それを厚労省に戻してもらわないといけない。

 検査項目も、県民健康管理調査がうまく行っていないという反省の上に立ったものにしてほしい。ホールボディ・カウンターは検出限界が高いので体重の軽い子どもほど測りにくい。よほど被曝していないと出てきません。だから血液検査や尿検査を入れてほしい。当然、甲状腺検査を速やかに、福島県外の人たちも含めて、少なくとも一年に一回できるようにすべきです。これも何十回も言っていますが、なかなか動きません。

 幸い、県民健康管理調査もほんの少しは改善されました。目的が「県民の不安の解消」から「予防原則に則った早期発見」に変わりました。

Q4  暮らしの支援について、県内の人はもとより、県外に避難している人たちへの支援、たとえば就労や住宅について、いま一番重要で緊急性があるものは何でしょうか?

吉野  やはり住宅支援の延長と住み替えを認めることです。住宅支援はいまも半年更新です。次の更新時には支援がないかもしれないとドキドキします。それと延長に関する支援対象地域も決まっているので、たとえば仙台から避難している人はだめかもしれないとか、そういうシビアな状況です。福島の人は大丈夫なんですが、他地域からの避難者も放射線の影響を心配してのものであれば延長できるようにしてあげないといけません。

 あと、いま問題になっているのは、子どもの進学やパートの仕事が見つかったなどの理由で、いま住まわせてもらっている住宅からは通えないから住み替えしたいという要望があります。たとえば、大阪市に住宅を借りていても実は豊中市の方がいいとなることもある。

 でもいまは住宅を変えること自体ができないので、住み替えをできるようにしてほしいという要望があります。これは厚労省の管轄なので、国の主導で実現できるようにしてほしい。

 期間については、2015年度まで大丈夫と厚労省は言っています。それ以上延ばせるかどうかは「支援法」をどう動かせるかにかかっています。いまは災害救助法の特例として5年までということになっています。放射能汚染はこれまでの法的枠組みを越えています。新しい制度を作ってこそ、支援の姿が見えてくるはずです。

※4 参考記事「甲状腺検査: 市町村別の結果を開示…福島県、請求拒めず」
(毎日新聞 2013年4月22日)
http://mainichi.jp/select/news/20130422k0000m040095000c.html


III  支援策が動いていないのはなぜか

Q5  最終的には原発事故避難者のための恒久対策立法という目標につながっていくのだと思いますが、そういう機運は出てきていますか?

吉野  いまのところないです。みなそのつもりでいるんでしょうけど、「支援法」そのものが一つも動いていないので。

Q6  全体としては支援法がほとんど動いていない、その最大の障害は何だと思いますか?

吉野  支援対象地域が決まっていないことです。1ミリシーベルトという線を引けないからです。基準を1ミリシーベルトに決めれば千葉県の中だって分断が起きます。補償が出るわけですから。道路一本挟んで、こちらは補償金が出ない。 しかし子どもが歩く通学路は同じ、とかね。

 国が線を引くことで新たな分断を生んでいいのかという問題もある。お金がかかるからという問題もありますが。おそらく正直なところはそうなんでしょうが、言い訳としてでしょうか、「分断を生むわけにはいかない」と国は言うのでしょう。

 それに対し私たち市民側は、選択するのは各個人なので、1ミリシーベルトを基準としつつ、在住する人には、きちんと定期的な検診をし、身近な放射線の測定も行い、速やかにホットスポットを解消するように頑張っていきますから許してください、と言えばいい。子どもが小さいので避難したいということなら、それに対処し、戻ってくるという人にもちゃんと支援すればいい。

 つまり選択肢を用意すればいいのです。「その地域の人は全員避難」ではないのだから。
 検診は小学校の普通の検診に組み込めばいいと思います。ただ甲状腺を検診できるエキスパートを育てるための研修は必要でしょう。

Q7  いまの政府からそういうリーダーシップは出てくるでしょうか。

吉野  難しいかもしれませんね。福島県は[避難している人を]戻したいと言っている、それぞれの自治体も戻したい。そこから選出されている議員だって地元の意向には背けない。すべての政党の県選出国会議員が福島県の意向には背けないと言っています。だから最終的には福島県の意識の持ち方にかかってくるのです。

(インタビュアー/文責:『福島と生きるメールマガジン』 2013年6月15日)

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『福島と生きる』メールマガジン特別号No.2-2 (2013年7月20日発行)
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発行人=中野憲志・藤岡美恵子(『福島と生きる--国際NGOと市民運動の新たな挑戦』共編者)

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