2014年8月29日金曜日

『福島と生きる』メールマガジン特別号 No.8-2

『福島と生きる』メールマガジン特別号 No.8-2
――息長く〈福島〉とつながり続けるために――
2014年8月28日発行(不定期刊)
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インタビュー
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竹内 俊之さん・藤岡恵美子さん(ふくしま地球市民発伝所 http://fukushimabeacon.net/
――「福島の教訓」を伝え、地球規模の世直し運動へ・パート2

<目次>
パート2
II 福伝がめざすもの
  世界に伝えたい「福島の教訓」
  世界防災会議に向けて
  社会のあり方を問う


II 福伝がめざすもの

世界に伝えたい「福島の教訓」
Q  福伝は福島の経験の海外への発信を活動の柱に据えています。福伝が世界にもっとも伝えたい「福島の教訓」とは何ですか?

竹内  この人類史的に稀有な経験から伝えなくてはならない教訓はたくさんあります。第一に、放射能被害がどういうものかを理解していない人々がほとんどですから、それを伝えることです。地域としてはアジアに重点を置いていきたい。
 まずは放射能被害の基本情報を伝えたい。先日、福島出身でインドネシアの航空会社に客室乗務員として勤めている方のお話をききましたが、3・11後、福島出身というだけで会社の同僚に握手をしてもらえなかったそうです。そのくらい放射能というものが理解されていない。だから初歩的な情報の発信が必要です。これは教訓以前の問題です。

 事故発生時の汚染状況、まだ未知数の長期的な影響、農業が被った被害と同時に放射能低減に成功した例などを伝えていかなければなりません。一定程度の人権が保障された日本ですらこんなことが起きたのですから、ましてや民主主義の成熟度が発展段階にある国で同じことが起きれば、ずっと大きな被害がでます。

 たとえば、川内原発に関して地元は避難計画を立てられないと言っています。その中で弱者切り捨てが平気で行われるのが原発なのだ、ということを伝えていかなければいけない。安全対策には膨大なコストがかかりますが、途上国ではセーフガードを取っ払って原発を推進しようとしています。
 これらのことすべて引っくるめて原発が持っているリスクを、それ以上に、常に経済を再優先とするため、それを過小評価し人権を二の次にしようとする為政者の普遍的な行動パターンを、福島で再び確認できた「学び」として伝えるべきと思っています。

Q  具体的にどういう活動を計画していますか?

竹内  ウェブなどで情報を発信することに加えて、アジアの原発立地または計画中の地域の市民社会組織(CSO)と福島との相互交流・訪問事業を計画しています。その交流を何らかのアクションにつなげていってほしいと思います。たとえば原発立地地域の人々の場合、事故が起きた場合の避難計画を自分たちで作り、地元行政が計画を立てていない場合、作らせるといった防災・減
災の活動。もう一つはより根本的に原発をなくそうという運動につながることが目標です。

 日本国内に伝えていくことも活動の一つと考えていますので、FoE Japanのような再稼働問題で動いている団体に、福島県内の情報や人を紹介するなど様々な形で協力していきたいと思います。

Q  支援する側の負の影響を含めて、支援活動の教訓の何をどのように伝えていきたいですか?

竹内  正直に言うと、この部分については非常に心もとない部分です。今回の震災での活動の蓄積がJANICの組織の内部でどれだけ引き継がれて行くのかということは、大きな課題だと思っています。JANIC内部に組織された震災タスクフォースは既に解散して現地で活動した人間は誰も残りません。また将来にわたって、恒常的に防災担当を置くかどうかも未知数です。

 ただ、震災タスクフォースの最後の活動として報告書を取りまとめました。これは昨年後半から始まったNGO、行政機関や被災地住民など622人への調査をもとに東日本大震災の支援活動を考察し、教訓を伝えるものです。PDF版が以下のリンクからダウンロード可能です。
東日本大震災市民社会による支援活動合同レビューWEB版
 http://www.janic.org/earthquake/news/pressrelease_eqreview.php

 この報告書は最終的に英訳されて海外の国際協力NGOや防災関係の市民社会組織CSOと共有される予定です。 実は今回指摘したような「支援する側の負の影響」は国際協力の現場では多く語られてきたことです。日本の現場でも同じようなことが起こるとは、多くの場合予想されていなかったと思います。ただ、ある程度国際協力の現場経験がある人間なら、デジャヴュのように思い返されたかもしれません。

 しかし今回は国内の大規模災害ということで、様々な層から多数の人々が支援活動に参加することになり、なかには初めてこのような活動に関わった方も少なくありませんでした。
 また、福島はとりわけ難しい現場です。これは災害支援というより紛争地の避難民・難民支援に近い活動です。被災地を取り巻く日本国内の雰囲気もそれに近かったと思います。このような現場の生々しい経験が組織の経験となるためには、経験が残ることが一番です。
 しかし、それが叶わないならば、今回の福島の被災者支援に実際に関わった、現地のNPOや他のNGOも含め、現場を知る人間とのネットワークを継承することだと思います。報告書だけでは本当の教訓は伝わらない。人によってしか伝えられないものだと思います。

世界防災会議に向けて

竹内  2015年に仙台で第3回国連防災世界会議が開かれます。会議は国際的な防災のとりくみの指針である「兵庫行動枠組(HFA)II」を採択する予定ですが、市民社会組織はこの指針に東日本大震災からの教訓、具体的には福島からの教訓を反映させるべく、2015国連防災世界会議CSOネットワーク(JCC2015)というネットワーク組織を作って活動しています。福伝はJANIC、ピースボート、CWS Japanとともに事務局を構成する団体の一つで、海外からやって来る市民団体の人たちに福島の実情を見てもらうために福島ツアーを行う予定です

Q  脱原発の課題と防災というテーマをどう結び付けようと考えていますか?

竹内  個人的見解ですが、JCC2015のネットワークは福島の問題だけを扱っているのではないので、それ自体が脱原発を声高に主張することはないと思います。しかし、世界会議には脱原発にとりくむ団体や環境NGOも参加するでしょうから、それとの連携は必要だと思います。

藤岡  HFA IIに原発災害の教訓を反映させようという活動はすでに始まっていて、6月にバンコクで行われたアジア防災閣僚会議の成果物である文書(インプット・ペーパー)には明確に「原発」とは書かれてないのですが、自然災害以外の、自然災害によって引き起こされる事故(原発や化学工場など)も防災の枠組みに含れることを、cascading disaster(連鎖的に起きる災害)やcritical infrastructure(社会にとって重大な意味を持つインフラ)という表現で表しています。

 世界会議に向けて市民社会組織の側の準備を行っているADRRN(アジア防災・減災ネットワーク)とGNDR(地球市民社会の防災ネットワーク)が今年福島を訪問した際、福島の団体にも会っていただきました。福島の実情を直接知ることで彼らの原発災害に対する見方や態度が変わったことは大きな成果でした。

竹内  福島県もHFA IIに原発災害のことを盛り込みたいと言っています。その実現のための具体的策は分からなくとも、言わずにはおれないということでしょう。
 防災世界会議は過去2回とも日本で開催されました。ホスト国の日本が自ら原発災害のことをHFA IIに入れようとはしないでしょう。その中で、HFA IIには原発災害のことも含まれるという理解ができれば、私たちとしては一つの前進ではないでしょうか。

 会議開催中には市民イベントもあるので、そこで原発災害の問題を海外からの参加者にいかにアピールできるかが肝心です。海外からの参加者は、やはり原発災害に関心があると思います。人類史上未曽有の災害なのですから。しかも、どう復興したかではなく、何に困ったかを聞いて自分たちの教訓にしたいはずです。そこを素通りして、津波や地震の被害だけを取り上げるなんて、あり得ません。福島で行うツアーも、どれだけ復興したかではなく、どんな問題に直面したかに焦点をあてるべきだと考えています。
 原発災害問題を取り上げるにあたって、やはり福島の地元の方々が動かなければ話になりません。そこがめざす成果の一つです。地元の人たちの動きを福伝やJCC2015が側面支援して行きたいです。

Q  東日本大震災の救援活動には米軍も加わりました。災害救援に自国の軍隊だけでなく他国の軍隊も関わるのはすでに世界的な潮流となっていますし、日本の災害救援・人道支援NGOの中にも自衛隊や米軍と連携している団体があります。しかし、軍隊の関与は軍事的な目的も絡むことから問題視されています。災害救援の軍事化の問題は、防災世界会議では議題に上らないのでしょうか?

竹内  世界会議ではむしろ、災害支援における「軍との連携」をいかに推進するかという話になるでしょう。しかし、議論の俎上に載せてしかるべき問題です。海外の紛争地などでの国際協力活動では、本来政府がやるべきことをNGOに肩代わりさせている状態です。NGOは本来、非政府の組織ですから、その非政府性の自覚を強くもつかどうかが重要だと思います。
 ただ、軍の災害支援関与を否定するとしたら、どんな代替案をもつのか。以前から、軍隊ではない緊急救援組織(いわゆる「サンダーバード」)を提唱する議論もありますが、現実にはなかなか進まない。
 とはいえ、どの国の軍隊であれ災害救援に役立てばいい、災害救援と安全保障問題は別問題、と切り離して考えることは問題があると思います。

社会のあり方を問う

Q  福島県有機農業ネットワークの菅野さんは先の「報告書」の中で「これからの社会のありかたについても発信していってほしい」と期待を述べています。この点について今後の抱負をお聞かせください。

竹内  五里霧中の段階ですが、今後の社会のあり方を考えるための可能性をもつ活動があれば、それを他の団体や人につなげてネットワークを作り、一つのムーブメントにしていきたいという希望は持っています。なにか一つの体系だった考えがあるわけではありませんが、そのような可能性に逆行する動きは明らかに存在します。それに対する異議申し立てをする中で、逆説的に将来の方向性が見えてくるのかもしれません。

 たとえば有機農業ネットワークの人たちも、答えが見えているわけではないと思いますが、それを見つける作業を一緒にしていきたいと思います。 かつて小田実が「運動自体の中にないものは将来の世界にもない」という意味のことを言っていました。この言葉を肝に銘じて、運動を作るプロセスを大切にしていきたいですね。

藤岡  竹内も私も都市部で育ったので、地方暮らしをしたことがなく、福島で有機農業に携わっている方々と出会い、その考え方や生活を学んだのは私たちにとって大きな意味を持っています。仮設住宅で暮らすこと一つをとっても、都会でアパート暮らしをしている人と、広い土地の広い家に住み、周囲で山菜などを採って暮らしてきた人では、まったく感覚が違います。福島から避難するかしないかという問題も、この土地に根を張って暮らしてきた人と都会で転々と居を移しながら暮らしてきた人では、まったく考え方が異なるのです。福島に来て初めてそれが実感として理解できました。
 ここ福島にいることは福伝の強みです。同時に、ここにいるけれど、もともとは外から入ってきた人間であり、国際協力NGOの経験を持っています。それを活かして、県内外の人々・活動をつないで意味のあることができたら、と思っています。

Q  県内外の団体が福伝と一緒にどんな支援や協働ができるでしょうか? また、資金的な問題も含め、今後の福伝の活動に向けてこんな支援がほしいというアピールがあればお願いします。

竹内  福島で活動した国際協力NGOでJANICの古参のメンバーでもあるJVCとシャプラニールは、前に述べたように、すでにそれぞれの縁の深い地域から福島へ来てもらってスタディツアーをしてきました。今回我々がJANICを離れ、福伝として福島と海外の原発立地地域のCSOとの交流事業を進めるにあたり、両NGO協議した結果、3団体で協働して進めようということになりました。
 またJANICが持つ海外のネットワークを通して来日するNGO関係者にも可能な限り福島で起きたことを伝えていきたいと思っています。

 福島の教訓と言ってもいろいろな側面があります。福伝のプログラムとしては主に海外を想定していますが、福島での教訓が国内の他の原発立地の方々へ伝わっているのかというと、特に防災や減災の観点からは伝えきれていないように思います。また、原発は好むと好まざるとにかかわらず、核兵器とセットで考えなければなりません。日本ではこれまでの意図的な情報操作の成果もあり、そのような見方は少数派ですが、特に海外ではその視点を持たない人はいません。

 その意味では、日本のあらゆる反核運動の枠組みに原発が普通に入るようになるよう、様々な機会を捕まえて言っていかなければならないと思っています。 福伝はこの6月に登記が完了して晴れてNPO法人となりました。是非会員となって支えていただければと思います。月並みですが、これが一番有難い支援です。 よろしくお願いします。

(2014年7月16日のインタビューをもとに構成。インタビュアー/文責:『福島と生きるメールマガジン』)

★『福島と生きる』関連サイト一覧★
低線量被曝から子供たちを守るために 
 http://blog.canpan.info/miharu1126/
まつもとこども留学 
 http://www.kodomoryugaku-matsumoto.net/
原発いらない福島の女たち 
 http://onna100nin.seesaa.net/
子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク 
 http://kodomofukushima.net/
福島県有機農業ネットワーク 
 http://fukushima-yuuki.net/
農家娘の日々。--福島の大地にきぼうのたねをまく--
 http://ameblo.jp/yunosato-farm/
国際環境NGO FoE Japan
 http://www.foejapan.org/energy/news/index.html
シャプラニール=市民による海外協力の会
 http://www.shaplaneer.org/support/jishin_japan.php
日本国際ボランティアセンター(JVC) 
 http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/touhoku/
ふくしま地球市民発伝所 
 http://fukushimabeacon.net/
新評論 
 http://www.shinhyoron.co.jp/

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※『福島と生きる』メールマガジンは、『福島と生きる--国際NGOと市民運動の新たな挑戦の共同執筆者の団体や活動の関連情報を発信していきます。

発行人=中野憲志・藤岡美恵子
(『福島と生きる--国際NGOと市民運動の新たな挑戦』共編者)