『福島と生きる』メールマガジン 特別号No.4-1
――息長く〈福島〉とつながり続けるために――
2013年10月29日発行(不定期刊)
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インタビュー
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満田夏花さん(FoE Japan )――行政の責任を問い続け、被災者支援と脱原発の運動を広げたい
<目次>
パート1
I 被災者の声が反映されない子ども・被災者支援法
II 国と自治体の責任を問う
III 対政府交渉の総括点
パート1
I 被災者の声が反映されない子ども・被災者支援法
Q1 満田さんはこの間、子ども・被災者支援法(「支援法」)の具体化を求める政府との交渉に関わってこられました。昨年6月に成立した支援法は、具体的な施策が決まらないまま1年以上もたなざらしにされていましたが、8月30日に復興庁が支援法実施の基本方針案を発表。パブリックコメントの期間は当初わずか2週間でした(抗議を受けて10日間延長)。
基本方針の内容は被災者の声にほとんど応えていないと満田さんたちは指摘しています【※1】。子ども・被災者への支援に関するこの間の政府・自民党の対応について、またそれについてどう評価しているかお聞かせください。
【※1】「パブコメ無視の「(修正)基本方針」は遺憾」(原発事故子ども・被災者支援法市民会議プレスリリース、2013年10月10日)を参照。http://shiminkaigi.jimdo.com/2013/10/10/pressrelease/
満田 支援法の基本方針には、5,000件近くのパブリックコメントが集まり、説明会でもたくさんの切実な声があがりました。多くの人が、各地で公聴会を開いてほしい、支援対象地域を年1mSvを基準に拡大してほしい、健診を県外でもやるべき、借上げ住宅制度の長期適用をしてほしいなどの意見を表明しました。
しかし、政府は、これらの意見に耳を傾け、支援法の基本方針の大々的な修正をするつもりはないようです【注-政府は被災者や市民団体の要望をほとんど聴くことなく、10月11日に基本方針を閣議決定した】。
支援対象地域については、市民や関係自治体から年1mSvを根拠にせよとの強い要望が出されました。国際的な勧告や国内法令的な根拠も強いので、それを否定することは政府としては難しい。それで福島県33自治体に限るという曖昧な結論にしたのではないかと推測しています。
現在、避難も帰還も基準は年20mSvです。民主党政権時代に帰還の基準を5mSvにすべきという議論もあったようですが、賠償や風評被害をおそれる政府や福島県が拒否したと朝日新聞が報じました。
支援法や帰還問題について政府とやりとりしていて感じるのは、放射線被ばくが怖いから帰還したくない、線量が高いので帰還できないという住民の声を抑えるのに政府は躍起になっているということです。支援法の支援対象地域の決め方にもそれを感じました。
支援法のもう一つの重要な柱は健康問題ですが、それに関する環境省の対応はかなり頑なでした。環境省をはじめ政府は、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、国際原子機関(IAEA)、世界保健機関(WHO)がチェルノブイリ後に実施した調査に基づいて、甲状腺がん以外に健康への影響はないという考え方を採っています。甲状腺がん以外の健康調査は行う必要がない、福島県外で行う必要もないという頑なな態度です。
Q2 今後の支援法に関して、具体的な成果を挙げるためにどこに焦点を置こうと考えていますか?
満田 短期的には、政府は閣議決定を強行しそうで、それを押しとどめる方法はなさそうです。ただ、健診の拡大や、借り上げ住宅制度の長期延長や借り換え・新規再開は、被災者の死活問題でもあるので、そこは個別具体的に頑張ろうと思っています。健康対応については、環境省が今年度
中に有識者会議を立ち上げる計画をもっていますが、そもそもその必要があるのか、何をするのかという点が議論になっています。
環境省は帰還する人に線量計を持たせて、個人の外部被曝量を測るという方式を考えているようです。その線量は空間線量より低く出ると言われています。健康への影響は心配ない、として健診の要求を受け流すつもりなのではないかと推測しています。県外の人にも実験的に持たせる計画で、「測ってみたら1mSv以下だったからみなさん安心してください」ということにしたいのかもしれません。
有識者会議に放射線医学総合研究所(放医研)や東大や長崎大学の研究者など、政府と同じ考え方の人たちを入れようと考えているのでしょう。でも、それでは市民は全然納得できません。県外でも健診をやってという強い要求がある中、なんのために有識者会議を作るのかが明確ではありません。設置するのであれば、ちゃんとした専門家と被災当事者を入れてほしい、健診を行うことを決めてその具体的内容を議論してほしいと要望しています。
住宅については、公営住宅の入居円滑化という案が出ていますが、入居可能性は不透明だし、現在、借り上げ住宅制度があるので、いまある制度を支援法の中で位置づけて活用してほしい、長期延長と借り換えを認めてほしい、新規避難者にも適用してほしいという要望を出しています。
長期的には、被災当時者が復興庁や関係省庁・自治体と議論できる場を持てるような仕組みを作りたい。また対象地域の基準を被ばく線量年1mSvにすべきという点は言い続けるべきだと感じています。今後、外部線量計を持たせるなどして、福島県内で放射線安全論を広めようとするでしょう。
「公衆の被ばく限度は1mSv」という認識は意外と広く人々の間に広がっています。長期的に「放射線安全論」に立ち向かうためにも、1mSvを守れと言い続ける必要があると思っています。
帰還モデルを問う
Q3 この基本方針の内容をみると、政府は住民の生活と権利を守るという、最低限果たすべき責任を果たしていないと言わざるをえません。現在の除染-帰還モデルは自治体の存続を優先していて、そこに住む住民の権利をないがしろにしています。
行政が行政としての責任を果たしていないことを、もっともっと問題化する必要があるのではないでしょうか。そのあたりをもっと具体的に追求しようという議論や動きは出ていますか?
満田 みんなが当事者だと私たちは言ってきました。この基本方針は避難者に冷たいだけでなく、住んでいる人にも決して温かくありません。放射能に関する具体的な心配に対しては、「そんなのは心の病だ」とでもいうような冷淡な対応です。健診を充実させようという内容もない。中通りや浜通りの避難区域外に住み続けながらも本当は避難したいという人にとっても冷たい方針です。
また、具体的な内容をみてみると、帰還に向けた支援が充実しており、避難し続けるという選択肢に対する支援が薄いのがわかります。こういう点もしっかりと行政に問うていく必要があります。
II 国と自治体の責任を問う
Q4 安倍政権になってから政府の姿勢に変化は起きていますか?
満田 以前の平野復興担当大臣のときは、民主党議員の仲介で大臣と被災者の会合も実現しました。しかし、自民党政権になってからは、このように市民と政府をつなぐ動きは少なくなりました。
また、復興庁は支援法の具体化を引き延ばしていることについて、紋切型の返事しかしなくなってきました。パイプ役の議員の数が減ったこともあって、政府の動きが見えなくなってきました。
Q5 福島県では、帰還した人に対して「寝た子を起こすな」的な雰囲気があります。自治体行政がそういう雰囲気を醸成するような役割を果たしています。福島県や自治体に対してはどういう働きかけをしているのでしょうか? また、福島県内の自治体の議員はどう考え、どう行動しているのでしょうか。
満田 私たちは、住宅借り上げの新規申し込みを打ち切らないでほしいという要求や、県民健康管理調査の関連で福島県と会合をもちました。住宅借り上げの新規申込の打ち切りは、帰還重視の考え方の反映ですね。健康調査について県の健康管理課長と話したことがありますが、福島県の住民が県や自治体と対話をもつのがベストだと思います。
現在、公的なお金を使って放射線安全論を刷り込むような活動が行われていますが、放射線の影響が現時点で分かっていないのだから、分からないなりに専門家や医師に加わってもらって健全な議論をする場を作ればいいと思います。
住民に説明なしの避難勧奨の指定解除
自治体当局が住民の信頼を失うような状況もあります。伊達市小国地区の特定避難勧奨地点は、2012年12月に解除されました。住民に対する説明会は開かれませんでした。実際に線量を計測すると全体に高く、局所的には10μSvを越えるところもあるのにです。特定避難勧奨地点は世帯ごとに指定され、賠償をめぐって地域が分断されたために、伊達市自身が解除を求めたのです。
全域の指定を求めるのではなく、賠償を受けられない住民の方に合わせて解除を求めた。それに対して怒っている住民もいます。伊達市に帰還する人は少ないのに、指定が解除されて賠償は打ち切られてしまいました。
福島市の大波小学校も休校になってしまいましたが、地区でまとまって移転できていれば、小学校ごと線量が低い場所に移すこともできていたでしょうし、子どもたちもちりじりにならずに済んだと思います。もちろん簡単なことではないかもしれませんが、それにしても痛ましいです。自治体当局や市長が望む方向ではなく、むしろ逆に自治体当局が信頼を失う状況が生まれています。
福島県内の自治体の議員の対応はいろいろです。2011年当初の避難区域設定の問題では、自治体議員さんの意見はさまざまでした。それでも、いわき市で9月20日に行われた「原発事故子ども・被災者支援法いわきフォーラム」【※2】には10人近い市議さんたちが参加していました。関心は高いと思います。
【※2】「原発事故子ども・被災者支援法いわきフォーラム」報告
http://shiminkaigi.jimdo.com/2013/09/20/iwakiforum-report/
III 対政府交渉の総括点
Q6 これまでの政府交渉の総括点を聞かせてください。どういう成果があって、どういうところに突破できない壁があるとお感じですか?
避難基準、再稼働問題
満田 20mSvの撤回や自主避難者の賠償問題については、問題を世の中に知らしめたという成果はあったと思います。学校の利用基準の20mSvを、形式上とはいえ撤回させたことは一つの成果です。自主的避難賠償については、被災者のみなさんと辛抱づよく声を上げ続け、雀の涙ほどでしたが、「自主的避難者等に関する賠償」を政府の賠償指針に入れさせたのは成果だと思います。
ただ、避難基準の見直しについてはまったく成果は上がっていません。2011年の段階で、福島市の渡利地区の問題をマスコミが報じて、避難問題に注目が集まったのは成果と言えるかもしれませんが、現実には何も動いていません。
再稼働問題については、去年、大飯原発再稼働が問題になったころは、官邸前行動が社会現象になりましたし、たくさんの国会議員が動いてくれました。これは市民運動の成果と言えます。破砕帯の調査が始まったのも私たちの働きかけの結果だと思います。調査をきっかけに議論が巻き起こって、原発の敷地直下に活断層があるかもしれないことや、活断層の判定は非常に難しいもの
だということが知られるようになりました。しかし、ここ半年ほどはすごく難しい時期に来ていると感じています。
汚染水問題
汚染水問題については、資源エネルギー庁が非公開で行う、議事録も公開されない秘密会議でゼネコンがプレゼンした凍土方式に国費を付けることになっています。国は「国としてとりくむ」と言っていますが、東電を前面に立てていて中途半端です。かたや、東電は死にそうになっているはずなのに、柏崎刈羽の再稼働のために3,200億円を投じると言っています。本来は汚染水対策に投じるべきです。こういう体制的な矛盾を明らかにしたいと思っています。
私たちは、東電も国も、いまは汚染水を止めることに集中すべきだということを主張しています。私たちFoE Japanは、汚染水対策の対案を示せと言われてもできません。そしてそれは、誰にとっても難しい話しであることは理解しています。しかし、いまのように中途半端に東電にやらせて国費で補填するやり方は、汚染水を止めるためにも、透明性の点からも、責任の取り方の点からもよくないということは主張していきたいです。
すぐに汚染水を止めるための対策の技術的議論も大事ですが、本来であれば破綻しているはずの東電を事故対策の前面に立てているので、東電はお金をケチり、汚染水対策にお金をかけなかった結果、いまの問題が起きています。この点を一緒に活動をしているみなさんとともに、主張していきたいと思っています。
Q7 今後、東京オリンピックに向けて「復興色」、再稼働必要論はますます高まり、「風化」はどんどん進むと思われます。
満田 「風化」は確かに進んでいますが、一方で汚染水問題は福島原発事故そのものに匹敵するような深刻な問題です。原発事故をなかったことにして、復興して、東京でオリンピックをやるという、現政権が思い描くシナリオは、汚染水問題でおじゃんになる可能性だってあります。
私たちのやっている活動は、原発事故で苦しんでいる人がいることが忘れられないようにすることです。首都圏の人々に対しては、私たちが東電の電気を使ってきたのだから知らんぷりすることはできないと訴えたい。そういう意味で私たちは加害者です。また、関東に住む私たちも、福島の人たちほどではないにしても多少は被ばくしているという意味で被害者でもあります。東京でこそ、より深刻な被害を抱えた人たちを守るような行動をとっていこうと訴えています。
(パート2に続く)
(2013年10月5日、8日 インタビュアー/文責:『福島と生きるメールマガジン』)
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イベント
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◇福島・三春の“収穫祭” 2013◇
※収穫の秋を迎えた福島・三春では、何事も放射能測定からはじまります。何も出ないことを、そして買ってもらえることを祈りながら、一年の農作業の手じまいに忙しく働いています。「フクシマ」とは、わたしたち自身のこと。福島の不安と怒りを共有し、明日を生きる力を交換し合う「祭り」、三春・収穫祭。ぜひご参加をお待ちします。
■日程:2013年11月2日(土)~3日(日)1泊2日
■場所:福島県三春町 三春の里田園生活館
http://miharunosato.com/index.html
■主催:芹沢農産加工グループ/福島「農と食」再生ネット/
滝桜花見祭実行委員会(JVC,PARC,APLA、福島「農と食」再生ネット他)
■協力:三春町/JAたむら
≪申込み締切≫ 2013年10月30日(水)
≪問合せ・申込み先≫
特定非営利活動法人APLA (吉澤)
■TEL:03-5273-8160(平日10時~17時)/FAX:03-5273-8667
■E-mail:info@apla.jp
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『福島と生きる』メールマガジン特別号 No.4-1 (2013年10月29日発行)
※『福島と生きる』メールマガジンは、『福島と生きる--国際NGOと市民運動の新たな挑戦』の共同執筆者の団体や活動の関連情報を発信していきます。
発行人=中野憲志・藤岡美恵子
(『福島と生きる--国際NGOと市民運動の新たな挑戦』共編者)
――息長く〈福島〉とつながり続けるために――
2013年10月29日発行(不定期刊)
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インタビュー
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満田夏花さん(FoE Japan )――行政の責任を問い続け、被災者支援と脱原発の運動を広げたい
<目次>
パート1
I 被災者の声が反映されない子ども・被災者支援法
II 国と自治体の責任を問う
III 対政府交渉の総括点
パート1
I 被災者の声が反映されない子ども・被災者支援法
Q1 満田さんはこの間、子ども・被災者支援法(「支援法」)の具体化を求める政府との交渉に関わってこられました。昨年6月に成立した支援法は、具体的な施策が決まらないまま1年以上もたなざらしにされていましたが、8月30日に復興庁が支援法実施の基本方針案を発表。パブリックコメントの期間は当初わずか2週間でした(抗議を受けて10日間延長)。
基本方針の内容は被災者の声にほとんど応えていないと満田さんたちは指摘しています【※1】。子ども・被災者への支援に関するこの間の政府・自民党の対応について、またそれについてどう評価しているかお聞かせください。
【※1】「パブコメ無視の「(修正)基本方針」は遺憾」(原発事故子ども・被災者支援法市民会議プレスリリース、2013年10月10日)を参照。http://shiminkaigi.jimdo.com/2013/10/10/pressrelease/
満田 支援法の基本方針には、5,000件近くのパブリックコメントが集まり、説明会でもたくさんの切実な声があがりました。多くの人が、各地で公聴会を開いてほしい、支援対象地域を年1mSvを基準に拡大してほしい、健診を県外でもやるべき、借上げ住宅制度の長期適用をしてほしいなどの意見を表明しました。
しかし、政府は、これらの意見に耳を傾け、支援法の基本方針の大々的な修正をするつもりはないようです【注-政府は被災者や市民団体の要望をほとんど聴くことなく、10月11日に基本方針を閣議決定した】。
支援対象地域については、市民や関係自治体から年1mSvを根拠にせよとの強い要望が出されました。国際的な勧告や国内法令的な根拠も強いので、それを否定することは政府としては難しい。それで福島県33自治体に限るという曖昧な結論にしたのではないかと推測しています。
現在、避難も帰還も基準は年20mSvです。民主党政権時代に帰還の基準を5mSvにすべきという議論もあったようですが、賠償や風評被害をおそれる政府や福島県が拒否したと朝日新聞が報じました。
支援法や帰還問題について政府とやりとりしていて感じるのは、放射線被ばくが怖いから帰還したくない、線量が高いので帰還できないという住民の声を抑えるのに政府は躍起になっているということです。支援法の支援対象地域の決め方にもそれを感じました。
支援法のもう一つの重要な柱は健康問題ですが、それに関する環境省の対応はかなり頑なでした。環境省をはじめ政府は、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、国際原子機関(IAEA)、世界保健機関(WHO)がチェルノブイリ後に実施した調査に基づいて、甲状腺がん以外に健康への影響はないという考え方を採っています。甲状腺がん以外の健康調査は行う必要がない、福島県外で行う必要もないという頑なな態度です。
Q2 今後の支援法に関して、具体的な成果を挙げるためにどこに焦点を置こうと考えていますか?
満田 短期的には、政府は閣議決定を強行しそうで、それを押しとどめる方法はなさそうです。ただ、健診の拡大や、借り上げ住宅制度の長期延長や借り換え・新規再開は、被災者の死活問題でもあるので、そこは個別具体的に頑張ろうと思っています。健康対応については、環境省が今年度
中に有識者会議を立ち上げる計画をもっていますが、そもそもその必要があるのか、何をするのかという点が議論になっています。
環境省は帰還する人に線量計を持たせて、個人の外部被曝量を測るという方式を考えているようです。その線量は空間線量より低く出ると言われています。健康への影響は心配ない、として健診の要求を受け流すつもりなのではないかと推測しています。県外の人にも実験的に持たせる計画で、「測ってみたら1mSv以下だったからみなさん安心してください」ということにしたいのかもしれません。
有識者会議に放射線医学総合研究所(放医研)や東大や長崎大学の研究者など、政府と同じ考え方の人たちを入れようと考えているのでしょう。でも、それでは市民は全然納得できません。県外でも健診をやってという強い要求がある中、なんのために有識者会議を作るのかが明確ではありません。設置するのであれば、ちゃんとした専門家と被災当事者を入れてほしい、健診を行うことを決めてその具体的内容を議論してほしいと要望しています。
住宅については、公営住宅の入居円滑化という案が出ていますが、入居可能性は不透明だし、現在、借り上げ住宅制度があるので、いまある制度を支援法の中で位置づけて活用してほしい、長期延長と借り換えを認めてほしい、新規避難者にも適用してほしいという要望を出しています。
長期的には、被災当時者が復興庁や関係省庁・自治体と議論できる場を持てるような仕組みを作りたい。また対象地域の基準を被ばく線量年1mSvにすべきという点は言い続けるべきだと感じています。今後、外部線量計を持たせるなどして、福島県内で放射線安全論を広めようとするでしょう。
「公衆の被ばく限度は1mSv」という認識は意外と広く人々の間に広がっています。長期的に「放射線安全論」に立ち向かうためにも、1mSvを守れと言い続ける必要があると思っています。
帰還モデルを問う
Q3 この基本方針の内容をみると、政府は住民の生活と権利を守るという、最低限果たすべき責任を果たしていないと言わざるをえません。現在の除染-帰還モデルは自治体の存続を優先していて、そこに住む住民の権利をないがしろにしています。
行政が行政としての責任を果たしていないことを、もっともっと問題化する必要があるのではないでしょうか。そのあたりをもっと具体的に追求しようという議論や動きは出ていますか?
満田 みんなが当事者だと私たちは言ってきました。この基本方針は避難者に冷たいだけでなく、住んでいる人にも決して温かくありません。放射能に関する具体的な心配に対しては、「そんなのは心の病だ」とでもいうような冷淡な対応です。健診を充実させようという内容もない。中通りや浜通りの避難区域外に住み続けながらも本当は避難したいという人にとっても冷たい方針です。
また、具体的な内容をみてみると、帰還に向けた支援が充実しており、避難し続けるという選択肢に対する支援が薄いのがわかります。こういう点もしっかりと行政に問うていく必要があります。
II 国と自治体の責任を問う
Q4 安倍政権になってから政府の姿勢に変化は起きていますか?
満田 以前の平野復興担当大臣のときは、民主党議員の仲介で大臣と被災者の会合も実現しました。しかし、自民党政権になってからは、このように市民と政府をつなぐ動きは少なくなりました。
また、復興庁は支援法の具体化を引き延ばしていることについて、紋切型の返事しかしなくなってきました。パイプ役の議員の数が減ったこともあって、政府の動きが見えなくなってきました。
Q5 福島県では、帰還した人に対して「寝た子を起こすな」的な雰囲気があります。自治体行政がそういう雰囲気を醸成するような役割を果たしています。福島県や自治体に対してはどういう働きかけをしているのでしょうか? また、福島県内の自治体の議員はどう考え、どう行動しているのでしょうか。
満田 私たちは、住宅借り上げの新規申し込みを打ち切らないでほしいという要求や、県民健康管理調査の関連で福島県と会合をもちました。住宅借り上げの新規申込の打ち切りは、帰還重視の考え方の反映ですね。健康調査について県の健康管理課長と話したことがありますが、福島県の住民が県や自治体と対話をもつのがベストだと思います。
現在、公的なお金を使って放射線安全論を刷り込むような活動が行われていますが、放射線の影響が現時点で分かっていないのだから、分からないなりに専門家や医師に加わってもらって健全な議論をする場を作ればいいと思います。
住民に説明なしの避難勧奨の指定解除
自治体当局が住民の信頼を失うような状況もあります。伊達市小国地区の特定避難勧奨地点は、2012年12月に解除されました。住民に対する説明会は開かれませんでした。実際に線量を計測すると全体に高く、局所的には10μSvを越えるところもあるのにです。特定避難勧奨地点は世帯ごとに指定され、賠償をめぐって地域が分断されたために、伊達市自身が解除を求めたのです。
全域の指定を求めるのではなく、賠償を受けられない住民の方に合わせて解除を求めた。それに対して怒っている住民もいます。伊達市に帰還する人は少ないのに、指定が解除されて賠償は打ち切られてしまいました。
福島市の大波小学校も休校になってしまいましたが、地区でまとまって移転できていれば、小学校ごと線量が低い場所に移すこともできていたでしょうし、子どもたちもちりじりにならずに済んだと思います。もちろん簡単なことではないかもしれませんが、それにしても痛ましいです。自治体当局や市長が望む方向ではなく、むしろ逆に自治体当局が信頼を失う状況が生まれています。
福島県内の自治体の議員の対応はいろいろです。2011年当初の避難区域設定の問題では、自治体議員さんの意見はさまざまでした。それでも、いわき市で9月20日に行われた「原発事故子ども・被災者支援法いわきフォーラム」【※2】には10人近い市議さんたちが参加していました。関心は高いと思います。
【※2】「原発事故子ども・被災者支援法いわきフォーラム」報告
http://shiminkaigi.jimdo.com/2013/09/20/iwakiforum-report/
III 対政府交渉の総括点
Q6 これまでの政府交渉の総括点を聞かせてください。どういう成果があって、どういうところに突破できない壁があるとお感じですか?
避難基準、再稼働問題
満田 20mSvの撤回や自主避難者の賠償問題については、問題を世の中に知らしめたという成果はあったと思います。学校の利用基準の20mSvを、形式上とはいえ撤回させたことは一つの成果です。自主的避難賠償については、被災者のみなさんと辛抱づよく声を上げ続け、雀の涙ほどでしたが、「自主的避難者等に関する賠償」を政府の賠償指針に入れさせたのは成果だと思います。
ただ、避難基準の見直しについてはまったく成果は上がっていません。2011年の段階で、福島市の渡利地区の問題をマスコミが報じて、避難問題に注目が集まったのは成果と言えるかもしれませんが、現実には何も動いていません。
再稼働問題については、去年、大飯原発再稼働が問題になったころは、官邸前行動が社会現象になりましたし、たくさんの国会議員が動いてくれました。これは市民運動の成果と言えます。破砕帯の調査が始まったのも私たちの働きかけの結果だと思います。調査をきっかけに議論が巻き起こって、原発の敷地直下に活断層があるかもしれないことや、活断層の判定は非常に難しいもの
だということが知られるようになりました。しかし、ここ半年ほどはすごく難しい時期に来ていると感じています。
汚染水問題
汚染水問題については、資源エネルギー庁が非公開で行う、議事録も公開されない秘密会議でゼネコンがプレゼンした凍土方式に国費を付けることになっています。国は「国としてとりくむ」と言っていますが、東電を前面に立てていて中途半端です。かたや、東電は死にそうになっているはずなのに、柏崎刈羽の再稼働のために3,200億円を投じると言っています。本来は汚染水対策に投じるべきです。こういう体制的な矛盾を明らかにしたいと思っています。
私たちは、東電も国も、いまは汚染水を止めることに集中すべきだということを主張しています。私たちFoE Japanは、汚染水対策の対案を示せと言われてもできません。そしてそれは、誰にとっても難しい話しであることは理解しています。しかし、いまのように中途半端に東電にやらせて国費で補填するやり方は、汚染水を止めるためにも、透明性の点からも、責任の取り方の点からもよくないということは主張していきたいです。
すぐに汚染水を止めるための対策の技術的議論も大事ですが、本来であれば破綻しているはずの東電を事故対策の前面に立てているので、東電はお金をケチり、汚染水対策にお金をかけなかった結果、いまの問題が起きています。この点を一緒に活動をしているみなさんとともに、主張していきたいと思っています。
Q7 今後、東京オリンピックに向けて「復興色」、再稼働必要論はますます高まり、「風化」はどんどん進むと思われます。
満田 「風化」は確かに進んでいますが、一方で汚染水問題は福島原発事故そのものに匹敵するような深刻な問題です。原発事故をなかったことにして、復興して、東京でオリンピックをやるという、現政権が思い描くシナリオは、汚染水問題でおじゃんになる可能性だってあります。
私たちのやっている活動は、原発事故で苦しんでいる人がいることが忘れられないようにすることです。首都圏の人々に対しては、私たちが東電の電気を使ってきたのだから知らんぷりすることはできないと訴えたい。そういう意味で私たちは加害者です。また、関東に住む私たちも、福島の人たちほどではないにしても多少は被ばくしているという意味で被害者でもあります。東京でこそ、より深刻な被害を抱えた人たちを守るような行動をとっていこうと訴えています。
(パート2に続く)
(2013年10月5日、8日 インタビュアー/文責:『福島と生きるメールマガジン』)
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◇福島・三春の“収穫祭” 2013◇
※収穫の秋を迎えた福島・三春では、何事も放射能測定からはじまります。何も出ないことを、そして買ってもらえることを祈りながら、一年の農作業の手じまいに忙しく働いています。「フクシマ」とは、わたしたち自身のこと。福島の不安と怒りを共有し、明日を生きる力を交換し合う「祭り」、三春・収穫祭。ぜひご参加をお待ちします。
■日程:2013年11月2日(土)~3日(日)1泊2日
■場所:福島県三春町 三春の里田園生活館
http://miharunosato.com/index.html
■主催:芹沢農産加工グループ/福島「農と食」再生ネット/
滝桜花見祭実行委員会(JVC,PARC,APLA、福島「農と食」再生ネット他)
■協力:三春町/JAたむら
≪申込み締切≫ 2013年10月30日(水)
≪問合せ・申込み先≫
特定非営利活動法人APLA (吉澤)
■TEL:03-5273-8160(平日10時~17時)/FAX:03-5273-8667
■E-mail:info@apla.jp
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『福島と生きる』メールマガジン特別号 No.4-1 (2013年10月29日発行)
※『福島と生きる』メールマガジンは、『福島と生きる--国際NGOと市民運動の新たな挑戦』の共同執筆者の団体や活動の関連情報を発信していきます。
発行人=中野憲志・藤岡美恵子
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