2012年1月6日金曜日

2012年のはじめに: 脱原発の〈思想〉と〈行動〉が試される年

2012年のはじめに: 脱原発の〈思想〉と〈行動〉が試される年


 2012年のはじまりに、新年を祝うお決まりの文句は控えたい。国際的にも、国内的にも、私たちの目の前には、祝うより解決すべきこと、そのために考えるべきこと、二年越しの「宿題」が山積していると思うからだ。私はむしろ、「祝うべきことなど何もない」="No hay nada que celebrar."という言葉を、厳粛な気持ちで噛みしめたいと考えている。

 "No hay nada que celebrar." アメリカ大陸の先住民族/民衆の運動体が、各国の「独立記念日」や「コロンブス・デー」など、国を挙げた祝賀行事に対して抗議の意思を示すために使ってきたフレーズである。私自身が今年に持ち越してしまった、ということはおそらく〈脱原発〉派全体もまたこれから真剣かつ真摯に向き合わざるをえない、と思える「宿題」の数々を列挙しながら、新年の挨拶にあえてこのフレーズを持ち出した理由を書き記しておこうと思う。

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 2012年は〈脱原発〉の思想と行動が試される年となる。
 思想の質と、それに規定された具体的な行動の中身が試される年になる。
 様々な方向性と内容を伴った、その意味では統一性も一貫性もない〈脱原発〉運動--私はそれをむしろポジチブに捉えている者の一人であるが--から、「排除の思想」を排除しつつ自らの思想の境界を広げ、深めること、その上でどこに、そして何にプライオリティをそれぞれが設定するかという、きわめてアクチュアルかつ困難な〈問題〉群に直面する、文字通りの「正念場の年」になるだろう。

 大状況的なリアリティから言えば、私たちは「減原発」による「原発+再生可能エネルギーのベストミックス」と原発輸出促進を通じて、「3・11」からの国家的「復興」とその先に広がる「経済成長」を夢想する民主、自民、公明の三大既成政党+官僚機構で成り立つ政治権力の構造を変えうる展望を見いだせないでいる。
 つまり、民主党が政権の座に今年いっぱい居座ろうが、万が一に解散→総選挙となって自民を中心とした政権、あるいは公明がいずれかと連立を組み政権に加わろうが、この「構造」が変わりようがない現実を引きずりながら私たちは新年を迎えてしまった、ということだ。

 政党政治や政局の動向に関する分析は後回しにしたい。
 最初に、民主党および官僚機構が「「減原発」による「原発+再生可能エネルギーのベストミックス」と原発輸出促進を通じ、「3・11」からの国家的「復興」とその先に広がる「経済成長」」を夢見ているという点について、簡単に触れておこう。


 まず、「減原発」による「原発+再生可能エネルギーのベストミックス」について。
 資源・エネルギー庁の「新しいエネルギー基本計画に向けたご意見を募集します」のページには次のような一節がある。
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 経済産業省資源エネルギー庁では、幅広く有識者の方々から新しい基本計画策定のためのご意見を聴く場として、総合資源エネルギー調査会に基本問題委員会が設置され、平成23年10月から議論が開始されております。 「革新的エネルギー・環境戦略」の策定を行うエネルギー・環境会議と連携しつつ議論が進むこととなっております。
 また、平成24年春頃には、望ましいエネルギーミックスの選択肢を提示し、国民的議論につなげていく予定です。
・・

 ここで言われている「望ましいエネルギーミックス」が、私が言う「「減原発」による「原発+再生可能エネルギーのベストミックス」のことである。そこでは将来的に一部廃炉にした原子炉を「絶対安全な(第四世代)原発」に交替させることをも含めて、つまりそれを選択肢から排除せず、今後の日本の中長期的な「エネルギー基本計画」なるものが構想されている。このことをまず私たちは踏まえておく必要がある。

 「幅広い国民の皆様からのご意見」の圧倒的多数は脱原発であるにもかかわらず、原発維持・推進を大前提にした「望ましいエネルギーミックスの選択肢」を構想しているのが経産官僚なのだ。

 「エネルギー・環境会議」の基本方針(案) 〔概要〕。(2011年12月21日
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(2)原子力政策、エネルギーミックス、温暖化対策に関する選択肢提示に向けた基本方針
① 原子力政策に関する選択肢の提示に向けた基本方針
原子力のリスク管理を徹底するとの方針に基づき選択肢を提示する
○ 原子力発電については、相当程度の社会的費用があり、世界最高水準の安全基準とその客観的かつ厳格な運用を確立するなど、安全対策を抜本的かつ計画的に立て直す。
また、賠償等のスキームを、国際的な動向と調和を図りつつ、整備する。

中長期的な原子力政策の在り方については、核燃料サイクル政策も含む原子力政策の徹底検証を行う中で、安全、環境、エネルギー安全保障、経済性などの論点を整理した上で、選択肢を提示する。
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 たしかに「エネルギー・環境会議」は、口先では、「脱原発」「原発推進」のいずれの立場にも立たず、「白紙」から「抜本的に」国の「エネルギー基本計画案」をまとめ、今春「提言」すると言っている。
 しかし、すでに「中長期的な原子力政策」という表現があますところなく示しているように、この会議の審議そのものがあくまでも「脱原発」ではなく「原発推進」の立場に沿って行われてきた/いる。野田政権登場時点から何度も強調してきたように、この点に関する野田政権・経産省・「エネルギー・環境会議」に対する幻想に未だとらわれている人がいるとしたなら、ただちにその幻想を捨て去るべきだろう。 


 上の3を押さえたうえで、福島・宮城・青森三県の「復興計画」の中身を見てみよう。
 あわただしかった年末・年始の数日間、私はこれら三県の「復興計画」と、南相馬市のそれを読んで過ごした。 もちろん、これらのみを読んでいたわけではないし、好んでそうしたわけでもない。クリスマスの三連休に「相馬と南相馬で考えたこと」がこれらに目を通すことを余儀なくさせたのである。(⇒南相馬市の「復興計画」については、「相馬と南相馬で考えたこと(2)」において触れることにする。)

⇒「福島県復興計画(第1次)」(今後10年間)とその「概要」版
⇒「青森県復興プラン/青森県復興ビジョン」とその「概要」版
⇒「宮城県震災復興計画」とその「概要」版
⇒関連サイト「東日本大震災復興対策本部

 できるだけ時間を取り、福島・宮城・青森三県の「復興計画」あるいは「ビジョン」の、せめて「概要」だけは目を通してほしい。そうすれば自ずと、以下の二点が理解できるはずだ。それらは、

1)福島県は脱原発宣言を行い、福島第一・第二すべての廃炉を国と東電に要請し、「原発に依存しない社会」を明言しつつも、宮城・青森両県については県内の原発および原子力関連施設の存続を前提にして「復興計画」が策定されていること、
2)福島県とその他二県との上に述べた違いはありつつも、また表現上の違いはありつつも、県としての具体的な「再生可能エネルギー推進」の中身は、三県とも非常に似通ったものになっていること、である。

 たとえば、青森県の「復興ビジョン」の、「Ⅳ 視点と中長期的な取組の方向性」の
「(4)再生可能エネルギーの導入推進による産業振興と持続可能な低炭素社会の実現」の次の内容を福島県・宮城県のそれと対照してみてほしい。

再生可能エネルギーの導入推進と産業振興(太陽エネルギー、風力発電、地中熱・温泉熱、バイオマス、廃棄物エネルギー、コージェネレーション関連(燃料電池、LNG冷熱利用等)、海洋エネルギー)
持続可能な低炭素社会の実現(全県民的取組の加速化、夏季及び冬季の省エネルギー対策、設備導入促進のサポート体制づくり等)
 

 この問題を考えるにあたっては、さらに「参考資料」として経産省がまとめた2012年度の「資源・エネルギー関連予算案等のポイント」を参照することをすすめたい。 ほとんど同じ内容と言ってよい三県の「復興計画」に組み込まれた「再生可能エネルギー推進」が、経産省による「ポイント」の「3.再生可能エネルギー・省エネルギー等の導入支援・最先端の技術開発」と完璧に対応したものであることが透けて見えてくるはずである。


 福島県の「復興計画」の問題点--〈脱原発〉の思想と行動、その課題に引きつけて

 続きは後日に。(未完)
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試験再開準備始まる/再処理工場(東奥日報)
解説:使用済み核燃料・直接処分コスト試算隠蔽 原子力ムラの異常論理(毎日)
原発の再稼働重点 東北電社長「地域理解得る」(河北新報)

「原発問題に対峙しようとしない」と宮城知事、国を糾弾(河北新報)
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 「原発事故の対応は県境で区切る問題ではない。汚染レベルによって対応しなければ、宮城県民としては大きな不満が残る結果になる」とまで語りながら、女川原発の再稼働・存続問題を含め「原発問題に対峙しようとしない」のは、知事および県、県議会も同罪ではないだろうか?