2011年1月24日月曜日

米国とイギリスの大学の軍事研究とグローバル軍産学複合体、その他

米国とイギリスの大学の軍事研究とグローバル軍産学複合体、その他

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米国とイギリスの大学の軍事研究とグローバル軍産学複合体

 「武器と市民社会」研究会の連続公開セミナー、「「ロボット戦争」はどこに向かうのか?」が先週の土曜日(2011/1/22)に行われた。今回が最後だということで参加するつもりでいたが、どうしても都合で参加することができなかった。(研究会の事務局は、昨日、早速セミナーのレポートを送ってきてくれた。担当者が週末を潰して作成したものである。なかなかできることではない。私は誰よりも事務局の労をねぎらいたいと思う。)以下、ちょっとした情報として、この研究会にも関連することを最初に紹介しておこう。

  「武器と市民社会」研究会は、「2007年5月にNGO関係者や研究者などによって設立された」。「会合開催、研究会メンバー有志による学会でのパネル報告、セミナー企画などを行って」きた。研究会は、無人戦闘・爆撃機やロボット兵器の登場など、対テロ戦争時代における「戦争」と「兵器」の形態変化の中で、これと日本の「市民社会」との関わりを考えようとするプロジェクトである。その中には、当然、「ミッサイル防衛システム」の日本配備、日米共同研究・開発、武器輸出三原則の規制緩和・撤廃問題も含まれる。
 私もまたこの問題意識を共有する者のひとりである。2007年1月に出した拙著『大学を解体せよ』は、まさにそうした状況と時代変化に日本の大学研究が深く関わっているという認識の下に書かれたものである。

 いろいろ詳しい説明を省略して言えば、「武器と市民社会」プロジェクトの問題意識を共有しつつも、私はこのプロジェクトには、日本における軍産学複合体の形成を問うという視点が非常に希薄なのではないか、という思いをずっと抱いてきた。研究会の過去の発言者の中では、唯一「核とミサイル防衛にNO!」キャンペーンの杉原浩司氏がこの問題を提起している程度である。しかし、無人戦闘・爆撃機やロボット兵器の登場、ミサイル防衛システムの日本独自の研究・開発を考える場合、グローバルなレベルにおける軍産学複合体の形成とそこにおける日本の大学研究が果たしている/果そうとしている役割の検討は欠かすことのできないテーマである。

 米国やイギリスにおいて、軍産学複合体を問う運動は広がりつつある。すでにこのブログで紹介してきたものに加え、新たに二つの資料を紹介しておこう。

そのひとつは、International Peace Bureau (IPB) とThe Institute for Policy Studies (IPS) が創設したdemilitarize.org が1月14日に公表したFact Sheet: The Pentagon and the Universitiesである。調査結果の一部を引用してみよう。

・Pentagon support totals $3 billion a year, about 12% of all university-sponsored R & D. The Pentagon also sponsors research at two Federally Funded Research and Development Centres (FFRDC): the MIT Lincoln Laboratory, which receives about $650 million, and the Software Engineering Institute at the Carnegie Mellon University at about $70...All told, Pentagon support for university research totals about $4 billion.

・The top recipients of Pentagon research funds in 2007 were Johns Hopkins University ($511 million), Pennsylvania State University ($172 million), Georgia Institute of Technology ($99 million), Utah State University ($62 million), University of Hawaii ($54 million) Washington ($58 million), and MIT ($53 million).

 調査の記述の中で特に注目したいのは、Apart from direct Pentagon support, many university professors through their consulting business receive funds from corporations, who in turn receive R&D funds from the Department of Defense, which are not reflected in the NSF figure. である。 つまり、ペンタゴンからの直接資金援助という形ではなく、米国の多くの大学教授が「コンサルタント」という活動を通じて企業から助成を受け、その企業がペンタゴン発注の軍事技術の研究・開発を行っている、しかしそれはNSFの統計の中には含まれていない(実際の額はもっと高額になる)、という分析だ。

 もうひとつは、2007年に公表された、オックスフォード大に拠点を置くFellowship of Reconciliation (FoR)と、Campaign Against Arms Trade (CAAT)がまとめたイギリスの大学の軍事研究の実態調査、Study War No More: Military Involvement in UK Universitiesである。その「主な調査結果」は、次の通り。

•between 2001 and 2006, more than 1,900 military projects were conducted in the 26 UK universities covered by the report.
•the total value of these projects to be a minimum of £725 million.
•Out of the 26 UK universities, those conducting the largest number of military projects were, in descending rank order: Cambridge, Loughborough, Oxford, Southampton and University College, London.
•Three powerful multinational companies were involved as the sponsors/ partners of over two-thirds of identified military projects: Rolls Royce, BAE Systems and QinetiQ.

 「続・大学を解体せよ--人間の未来を奪われないために」で述べたように、産軍学複合体は、
①軍事(に転用される)テクノロジーと産業部門の「イノベーション」のための/それに転用されるテクノロジーの境界線が「融合」し、
②その「融合」領域に対して、大学と研究者が自己資金を確保するために能動的に関与することによって形成される。 米国やイギリス、フランス、中国、ロシアにイスラエル等々の核軍事国家においては、軍産学複合体は完璧に制度化されたシステムとして存在するのである。

 こうした核軍事国家の軍産学複合体との日本の軍事産業と大学や独法系研究機関の「連携」や「融合」に対して、「憲法九条があるから日本の大学は軍産学複合体とは無関係である」と考えることは、「「護憲」を貫くことが軍産学複合体の形成を阻む」という考えと同じくらいナイーブであり、無力である。事態は憲法九条問題とは次元の違うところで進展してきた/いるのだ。

 今、非常に重要な研究領域は、上の二つの資料が行ったような実態的な研究調査を日本の軍事産業と東大・京大を筆頭とする日本の大学研究・開発に引き付けて、具体的に行うことだ。その意味において、「武器と市民社会」研究会の「プロジェクト」のスコープはきわめて自己限定的であり、弱点を持っている。


大学研究の可視化と規制

 一昨日の「武器と市民社会」研究会では、「グローバル軍産学複合体の中の東京大学、そして日本の大学(1)」の中で紹介した、国立大学法人千葉大学の副学長が率いる「ロボット工学」研究のことが触れられた。「米軍マネー、日本の研究現場へ 軍事応用視野に助成」という2010年9月8日の朝日新聞の記事をベースにしたものだが、とくに新しい事実の暴露はなかったようだ。去年の記事では、次のようなことが書かれていた。

「大学や研究所など日本の研究現場に米軍から提供される研究資金が近年、増加傾向にあることがわかった。研究に直接助成したり、補助金付きコンテストへの参加を募るなど、提供には様々な形がある。背景には、世界の高度な民生技術を確保し、軍事に応用する米軍の戦略がある。軍服姿の米軍幹部がヘリコプター型の小型無人ロボットを手に取り、開発者の野波健蔵・千葉大副学長(工学部教授)が隣で身ぶりを交えて説明する。そんな様子が動画投稿サイトで公開されている。 米国防総省が資金提供し、インド国立航空宇宙研究所と米陸軍が2008年3月にインドで開いた無人航空ロボット技術の国際大会の一場面だ。

 千葉大チームは「1キロ先の銀行に人質がとらわれ、地上部隊と連係して救出作戦に当たる」というシナリオのもと、自作ロボットで障害物や地雷原、人質やテロリストの把握などの「任務」に挑んだ。入賞はならなかったが、その性能は注目を集めた。参加は、組織委員会に日本の宇宙航空研究開発機構の研究者がおり、出場を誘われたからだという」・・・。

 実は、2008年に開催した「戦争マシーンを止めよう! ~「産軍学複合体」の現実に迫る~」 の準備過程において、「ロボット憲章」を起草しながら上のコンテストに参加した「千葉大チーム」の責任者、野波健蔵氏に講座での発言を依頼したことがある。千葉大の事務局(総務課)を通して行ったその要請は、当然と言えば当然なのだろうが、丁重に断られてしまった。

(つづく)