2012年8月23日木曜日

「竹島・尖閣・北方領土問題」における米国の〈戦後責任〉を問う

「竹島・尖閣・北方領土問題」における米国の〈戦後責任〉を問う


 「領土問題」に関する米国の二枚舌外交を許さず、「竹島・尖閣・北方領土」の領有権の所在に関する米国の公式見解を国際的に明らかにさせることが、これらの「領土紛争の平和的解決」の第一歩である。

 たとえば、米国は「尖閣諸島」が「日米安保条約の適用範囲」だという。では、「竹島」はどうなのか? 「北方領土」はどうなのか?

 なぜ、米国は「竹島」/「独島」を韓国領に組み入れた「李承晩ライン」とその後の韓国による「実効支配」を黙認し続けてきたのか?  なぜ、米国は旧ソ連時代から続く、ロシアによる「北方領土」の「実効支配」を黙認し続けてきたのか? そして、なぜ、日本政府・外務省は、日中・日韓の二国間条約において、「竹島」と「尖閣諸島」の領有権問題を棚上げにしてしてきたのか?

 韓国に対し、国際司法裁判所への「共同提訴」を申し入れるのであれば、なぜ中国に対し、またロシアに対し、「領土問題の平和的解決」に向け、国際司法裁判所への「共同提訴」を申し入れないのか? 中国やロシアが「共同提訴」を拒絶するなら、「単独提訴」も辞さない「不退転の決意」(「竹島問題」に関する野田首相の言葉)を示そうとしないのか? これまで半世紀以上にわたり、なぜそうした姿勢を一度たりとも示してこなかったのか?


 日本政府は、「尖閣諸島は安保の適用範囲」という言質を米国から引き出すことで自己満足し、「尖閣諸島」の「実効支配」を強化すれば、それで中国・台湾との「領土紛争」を沈静化できるかのように考えているようだ。しかし、そのような希望的観測は完全に誤っているといわねばならないだろう。「戦略的互恵関係」を維持しながら、同時に「日米動的防衛協力」を推進し、それによって「中国封じ込め」をはかるという矛盾に満ちた対中戦略は、もはや中国の市民(共産党ではない)には通用しなくなっていることを知るべきである。

 市場と安価な労働力目当ての中国への経済進出を続けるために、領土問題や先住・少数民族、労働者、一般市民の人権問題を曖昧にし、棚上げにするような、二枚舌で二重基準の対中外交はもはや許されなくなっている。中国共産党の問題から言えば、日米との経済関係を優先し、「尖閣諸島問題」の公的な解決を棚上げにし続けること、すなわち日本の「実効支配」を黙認するという、長年にわたる「既定方針」が通用しなくなってきている、ということだ。中国の世論は、もはや共産党政府の言論統制や弾圧に屈することがないからである。
 領土問題をめぐる排外的ナショナリズムと軍事的緊張のの高まりを回避するために、従来通りの「棚上げ路線」ではなく、どういう形になるのであれ、公的で最終的な決着をつけざるをえない局面にいたってしまったこと、このことを確認することが最も重要なポイントであるだろう。


 韓国は「竹島」/「独島」を「固有の領土」と主張し「実効支配」を続け、日本もまた「固有の領土」を主張し、韓国の「実効支配」を「不法占拠」と批判する。
 では、韓国の「実効支配」の国際法的根拠と、日本がそれを「不法占拠」と言う場合の国際法的根拠は何か? 日韓基本条約において「竹島」/「独島」の領有権問題は棚上げにされたのであるから、両国の主張の国際法的根拠があるとしたら、サンフランシスコ「平和」条約以外にはない。

 しかし、そのサンフランシスコ「平和」条約は、「竹島」/「独島」の領有権の所在について、明示的には規定していない。あるのはただ、戦後の日本が領有権を放棄すべき領域が「済州島、巨文島及び鬱陵島を含む朝鮮」という表現のみである。
 この「鬱陵島」に「独島」が含まれると韓国は主張し、「竹島」は含まれないと主張する。日韓双方が互いに相手の主張を「不当」「国際法違反」だと言いあってきた。いつまでたっても埒があかない膠着した状況、主張合戦と対立が60年間にわたり続いてきたのである。

 ここで、「竹島は日本固有の領土」論を信じて疑わない人に、韓国の「独島」領有の主張を論駁する日本政府・外務省の主張が、おしなべて「米国頼み」になっている事実に注意を向けることを訴えたい。
 たとえば、講和条約の解釈に関し、外務省は次のように書いている。( 「議論が深まらない社会」(3)--「竹島問題」をめぐって」を参照のこと)

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「・・・韓国側の意見書に対し、米国は、同年8月、ラスク極東担当国務次官補から梁大使への書簡をもって以下のとおり回答し、韓国側の主張を明確に否定しました・・・」
「また、ヴァン・フリート大使の帰国報告にも、竹島は日本の領土であり、サンフランシスコ平和条約で放棄した島々には含まれていないというのが米国の結論であると記されています・・・」
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 であるなら、日本政府・外務省が半世紀ぶりの国際司法裁判所に対する「共同提訴」を韓国に申し入れる前にすべきことは、まず上の記述が事実かどうかを米国が国際社会と韓国に向けて明らかにするよう申し入れることではないのか。
 米国は、日本の「戦後処理」に関わるいかなる事案においても「中立」ではありえないし、韓国と日本に対して舌を使い分ける、米国の手前勝手な「中立」宣言を許してはならないのである。

 私はこれとまったく同じことを、韓国の市民に対しても訴えたい。韓国政府は「独島」の領有権をめぐる米国の公式見解をただすべきであり、韓国市民は政府に対してそうするように要求すべきなのだ。そうすれば、「日米同盟」/「韓米同盟」がただの欺瞞であり、「日米安保」/「韓米安保」がただの虚構にすぎないことも、自ずと明らかになるはずである。

 「日米同盟ムラ」と「韓米同盟ムラ」の嘘にだまされないこと。日韓両市民にそのことが問われている。


  「竹島・尖閣・北方領土問題」の本質とは、戦前の「大日本帝国」が海外侵略し、他国の領土を併合する以前の「日本固有の領土」とはどこまでの領域をさすのか、という問題である。サンフランシスコ「平和」条約は、ロシアによる「北方領土」の実効支配の解決を含め、この問題に決着をつけなかった。そして米国は、これらの最終的決着をつける第一義的な〈戦後責任〉を負っており、日本政府は米国にその責任を果たさせる責任を負っている。それを果たさずに「日米同盟」だの「動的防衛協力」などと語れるはずがないではないか。宗教的信仰にも似た「日米同盟」という欺瞞から、いったいいつになったら私たちは解放されるのだろう

 最後に、「尖閣諸島問題」に関し、一言だけ付け加えておきたい。 1972年の「沖縄返還」まで占領統治していた間に、米国は日本政府への通告や「事前協議」もなく、中華民国(台湾)を介して「尖閣諸島」の周辺海域において石油・天然ガスなどの開発に向け、動き始めていた。(米国が「南シナ海」の石油・天然ガスの米中共同開発にも手をつけようとしてきたことを忘れないでおこう)。1972年の日中国交回復以前にこの事実は明らかになっていたが、当時の自民党政府・外務省は何もしなかったのだ。この史実をその経緯とともに明らかにし、米国の公式見解をただす必要がある。

 一方、中国・台湾に対しては、「固有の領土」論を主張する国際法的根拠を、国際的に、つまり中国・台湾市民に対しても、明らかにしてもらう必要がある。中国は国連案安保理常任理事国として、現に存在する日本との「領土紛争」をどのように解決しようとしているのか、またサンフランシスコ「平和」条約の国際法的有効性を認めるのかどうか。

 「中国脅威」論を扇動し、「南西諸島」の軍事化を進める前に、日米両政府が「尖閣諸島問題」の解決に向けやるべきことは山のように存在するのである。

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沖縄に高性能レーダー配備も=オバマ政権、アジアでMD網拡充―米紙(時事)
「・・・米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は22日、オバマ政権がアジア太平洋地域でミサイル防衛(MD)網を拡充させる計画を進めていると報じた。中国や北朝鮮の弾道ミサイルに対応するのが狙い。早期警戒レーダー(Xバンドレーダー)の沖縄県への配備が検討されているもよう・・・。Xバンドレーダーの新規配備先について「南日本の島」と指摘。
 具体的な地名は不明だが、中国の弾道ミサイルを視野に入れていることから沖縄県内が候補地とみられる。現在、日本政府と協議しており、同意を得てから数カ月以内に設置したい考えという」。